のぞまれないいのちと、それをのぞむひとたちと…… 2つの物語で、小さな生命の尊厳に迫る意欲作が再演

のぞまれないいのちと、それをのぞむひとたちと…… 2つの物語で、小さな生命の尊厳に迫る意欲作が再演

 1973年に新聞報道されたことで明るみに出た「赤ちゃんあっせん事件」。宮城県石巻市で開業していた産婦人科医菊田昇医師が、中絶されそうになった赤ちゃんを秘密裏に出産させ、望んでも子供が授からない夫婦にあっせんしていたという事実は日本中で大きな論争を呼び、後の特別養子縁組制度の制定へとつながっていく。

 作品を通じて人間の本質に迫る作品を発表し続けている劇作家、大西弘記の『のぞまれずさずかれずあるもの』は、この事件をモチーフにして書かれ、自らが主宰する劇団TOKYOハンバーグによって上演された作品だ。初演(2010年)では事件から40年経った時代に生きる、血の繋がらない5人の兄弟が家族を模索する物語だったが、再演時にはそこに事件そのものに迫った物語が加わり、それぞれ『東京2012』『宮城1973』の2作品となった。

 小さな生命から発せられる小さな声は何かを訴えていたのか。そしてそれを受け取った大人はどう行動したのか。そしてその行動は何を生んだのか。それぞれを補完することになる2つの物語の幕が開く。

―――この作品には1970年代に実際にあった、赤ちゃんのあっせんという医師の行為が採り上げられています。

大西「その菊田昇先生の事件をモチーフに書いたのが『東京2012』で、その事件そのものを書いたのが『宮城1973』です」

―――2019年の再演の時に『宮城1973』が書き下ろされて2作品になった訳ですが、さらに今回取り組もうと思われた理由を教えてください。

大西「この作品にもう一回、僕自身が向き合いたいと思ったんです。もっともこれは普遍的な話なので、何度でも向き合いたいし、さらに続編も構想しています。そもそも僕は一度向き合ったモノを簡単に手放したくないんですね。そこに俳優を置いて、演劇として組み立てて観客と共有したい。あともっと出来たのではないかという僕自身の悔いの表れもあります」

―――今回は新たなキャストで挑まれるわけですが、ここに集まられた皆さんそれぞれ、どんな役なのかを教えてください。

吉本「私は『東京2012』で血の繋がらない兄弟の末っ子です」

槌谷「私は『宮城1973』の方。斡旋事件の当事者である菊田医師を取材した、記者の妻です」

山本「僕は『東京2012』です。兄弟の長男ですが、上には姉がいる設定ですね」

大西「彼ら全員、前回の時は出演していませんし、観てもいません」

―――それぞれ皆さんの立場で、作品にどんな印象を受けましたか。

吉本「自分が出演する方だけでなく、先日『宮城1973』の稽古も見学したのですが、凄く質感も色合いも異なる作品なので、2作品観ると凄く面白いと思いました。『東京2012』は家族が大きなテーマになっていますので、初めての人には観やすいかな。大西作品の素敵な部分がよく出ています」

槌谷「私自身まさに子供を産むか産まないかを考える世代なので、この作品はちょっと辛い部分もあります。私の周りにもいろいろな決断や行動をされる方がいますから、その立場からすると現実を突きつけられている感じです。登場人物の女性に共感してしまう部分もあります」

山本「赤ちゃんあっせん事件をモチーフにして書かれていますが、命と人の生き様や家族の在り方が現れている作品だと思います。難しい部分も多い、すごく深いテーマだとおもいます」

―――こうした社会的で重いテーマの作品を最初どうして書こうと思った?

大西「『東京2012』を書く前に手がけた作品で、役所に養子縁組の書類をもらいに行くシーンがありました、それに伴って勉強したら菊田先生による赤ちゃんあっせん事件に当たったんです。ただ興味はあるものの調べてみると事件そのものを書くことは自分にはできないと思い、事件をモチーフにした『東京2012』を書きました。それが精一杯だったんです。そして前回もう一度この作品に向き合ったときに、やはり菊田先生を取り上げようと考えました。そして実際に取材された藤岡さんという記者の目線で書くことにしたんです。それで新作として『宮城1973』を上演したんです」

―――『東京2012』は血縁がない5人の兄弟が登場して、彼らが作る家族を描き出していきますが、皆さんはこうした“血の繋がらない家族”について、どう思われますか。

吉本「実は私自身が父とは血縁が無いんです。今の父とは小学生の頃に出会い、実父とよりも長い時間を一緒していますし仲もいいので、これもまた本当の父親なんです。だから血縁は大切ですが、それがなくても家族は作れると思います」

槌谷「血が繋がっていても不幸せな家族もあります。だからお互いがどのように関わってきたかの方が大切だと思います。血縁が大事なわけではないでしょう」

山本「僕も同じ意見です。血縁よりもどれだけ同じ時間を濃密に過ごせたかの方が重要なんじゃないでしょうか」

大西「劇団をやっていて思いますが、それこそ家族みたいなものでしょう。吉本の家庭については詳しくは知らなかったのですが、10代でそういった体験をした人は、普段は聞こえない声を聞くことができる心の耳や目を持って育つのだろうと思います」

―――話を伺っていると、2つの作品が全く別物であり、同時にお互いを補完しているように思えてきました。

吉本「脚本を読んだ段階で“この作品はどちらを観て頂いても損はない”と自信が芽生えました。もちろんそこからさらに我々役者が膨らませますから、大いに期待してもらって構いません。お薦めは東京をみてからの宮城でしょうか(笑)。そうするとまた東京が観たくなる……沼です(笑)」

槌谷「今回TOKYOハンバーグに初めて参加される客演の方も多いので、新しい空気感が入ってくれば良いと思います。2作品それぞれ印象が違いますし、きっと前回ともまた違うので、やはり両方観てくださいということになってしまって(笑)。それに両方観ると作品の世界観に没入できるでしょうね」

山本「僕はもうただただご来場をお待ちするだけです」

大西「もはやコロナ禍が存在しない状況の方がSFみたいになってしまった昨今で、ここ3作くらいはコロナ禍を背景にした作品でしたが今回は違います。表裏一体になっている感じの作品ですから両方ご覧になってください」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

大西弘記(おおにし・ひろき)
三重県出身。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始め、岸田國士、菊池寛、ブレヒトなどの作品に出演する。さらに外部出演などで俳優として活動し、2006年に自らの手による作品を上演する母体としてTOKYOハンバーグを立ち上げる。以降、全作品の脚本・演出を担当する。さらに外部への書下ろし、演出も数多く手がけている。

山本啓介(やまもと・けいすけ)

山口県出身。2021年の公演『朧な処で、徐に。』に出演し、11月より劇団員となる。

槌谷絵図芽(つちや・えずめ)
神奈川県出身。文学座附属演劇研究所に入所。卒業後、本格的に演劇活動を始めいくつもの作品に出演する。TOKYOハンバーグには2019年の『人間と、人間と似たものと。』のオーディションを経て、以降TOKYOハンバーグの作品に客演として参加。2021年11月より劇団員になる。

吉本穂果(よしもと・ほのか)
福岡県出身。2009年に郷里である福岡の市民劇にて演劇と出会う。その後、桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻に進み、卒業後、TOKYOハンバーグが開催したワークショップオーディション受講を経て入団した。

公演情報

TOKYOハンバーグ Produce V ol.34
『のぞまれずさずかれずあるもの 宮城1973/東京2012』

日:2022年3月17日(木)~27日(日)
場:サンモールスタジオ
料:前売4,000円 当日4,500円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:http://tokyohamburg.com
問:TOKYOハンバーグ mail:info@tokyohamburg.com

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