24人を俳優4人で、主人公1人も俳優4人で演じる。加藤健一事務所による新たな世界をめぐる『叔母との旅』へ!

24人を俳優4人で、主人公1人も俳優4人で演じる。加藤健一事務所による新たな世界をめぐる『叔母との旅』へ!

 55歳で平穏な日々をおくるヘンリーのもとに、突然、オーガスタ叔母さんがやってきた! 思いがけず一緒に世界中を旅することになるけれど、常識にとらわれない叔母さんといるとエキセントリックなことばかりで……。
 英国の人気作家グレアム・グリーンの人気小説を舞台化し、老若男女24人を4人の俳優が演じる。それだけでなく、4人で主人公ヘンリーを演じるという、演劇ならではの冒険心あふれる脚本は、世界中で上演されている。このたび鵜山仁の演出のもと、加藤健一、天宮良、清水明彦(文学座)、加藤義宗が演じることに。さて、どんな旅になるのか?


どう演じたらいいのか? なにを演じたらいいのか?

―――なんと24人をたった4人で演じます。戯曲を最初に読んでいかがでしたか?

加藤「もともとは小説で、いろんなところに場面が飛んだり、コメディだったりサスペンス仕立てだったりします。それを4人の男性だけで演じるという発想が面白いだけでなく、もうひとつ、ヘンリーという1人の男を4人で演じるんです。これは作家の書き方として面白い。戯曲化したジャイルズ・ハヴァガルが僕達に『やれるもんならやってみろ』と挑戦しているみたいだから、『じゃあやってみようじゃないか!』と(笑)」

天宮「そうですね。戯曲はとてもコミカルで、スリリングで、怪しげで、オーガスタ叔母さんの世界にサーッと巻き込まれていくんですが、『ん? ちょっと待てよ? これどうやるんだ?』とイメージすら浮かばない。逆に言うと、俳優としての真価が問われる作品でありながらも、演出家の方によってどんな形にも変化ができる。きっとすべての人達……演出家、俳優、スタッフの方々……の歯車がうまく回り始めたら、想像もつかないところに連れてってもらえるのかなと期待もあり、不安もあります。でも演劇という面ですごく面白いアプローチをしている作品なので楽しみですね」

加藤「でも怖かったのは、完成図が見えないんですよ。普段なら僕の中に完成図が見えて、それは演出家さんとそれほど違わないものです。でも今回はどういう表現にするのかすべてが演出家まかせ。演出の鵜山(仁)さんのことは信頼しているので、まかせきって僕達は台詞を覚えて生きるしかないなと(笑)」

天宮「読んでいると『あれ、自分は何役やってるんだ? 何歳から何歳なんだ?どうやって演じ分けたらいいんだ?』という驚きと不安が……(笑)」

清水「そうなんですよね。演じ分けはかなり難しい。稽古初日にいろいろ試してみたら、鵜山さんに『4人で1人を演じるんだから勝手にやるな』と言われ、なるほどそうかと思って“同じように”演じてみたら、ひと役どころかどの役も同じようになっちゃって『だめだこりゃ』と……。
 戯曲を最初に読んだ時はもうコロナ禍で、いろいろあってたまたま実家にいて庭の花をいじっていたりした時、ふと『これってヘンリーと同じじゃないか!?』って。銀行を退職して趣味の庭いじりをしているところにとんでもない叔母さんが来たら『ええー! これからイスタンブールへ行くの!?』って驚きますよ。でも本当にそこから世界中へアドベンチャーだらけな旅をして……って想像したら、浮かない気持ちが元気づけられたような、楽しい気持ちがした。『ぐちゃぐちゃになるかもしれないけど面白いかもしれない』って。『このまま人生が終わるかもと思っていたら、実はこれから始まるんじゃないか』となにか力がわいてくる気がしました。お客さんもそういう気持ちになってくれたら嬉しいな。ただ、実際にやることに関しては……(笑)」

全員「(笑)」

清水「でも全面的に、加藤さんも鵜山さんも天宮さんも義宗君もみんなを信頼してるので、これから七転八倒しながら頑張ります」

―――なかでも義宗さんはなんと、役名が「???」と謎の役ですね!?

義宗「そうなんですよ。最初に戯曲を読んだ時、超パワフル叔母さんにどんどん巻き込まれて次から次へと旅していくのが面白いなと思ったんですけど、『ところで僕は、何をすれば……?』という感想でした。稽古が始まったらわかるかなと思ったんですけど、まだわかりません!」

全員「(爆笑)」

義宗「読み合わせの段階では、鵜山さんも『ここでは出てるかもしれない』という感じなので、実際に立って動いてみないと舞台上にいついるのかもわかりません。皆様が『どう演じたらいいのかわからない』とおっしゃっているところで、僕はそもそも『その時そこにいるかどうかもわからない』んですよね(笑)。逆にだからこそいろいろなことに挑戦できるとも思えるので、楽しみです。鵜山さんの頭の中にあるものを拾って具現化していきたいですね」

―――いったいどんな舞台になるのか……想像がつきません!

加藤「でもテーマ自体は難しいことではないんですよ。ヘンリーには生まれてから55年かけて培われてきた人格があって、『幸せとはこういうものだ』と思ってきた。早めに退職して、退職金をたくさんもらって趣味に打ち込んで、『俺の人生は良かった』と思っていたところに叔母さんがやってきて変化が起きる。結婚するかもしれない女性のことも忘れちゃうくらいの、新しい生き方をしていくんです……まるで眠っていたDNAがある日突然起きるみたいに。そういうことは誰にでもある、というのがテーマだと思います。いつ起きるかはわからないけど、ふっと人生が変わって、自分でも変えようとしていく。それがあなたにも起こりうるんだと伝わるといいですね」

4人のチームワークにかかっている作品

―――今回は「読み合わせ」に時間をかけているそうですね。

加藤「普通は3日ぐらいなんですけど、一週間ほどやりますね。役もたくさんありますから、読むことでまず方向性を決めないといけない」

天宮「僕で10役ありますね」

清水「僕は9役くらいかな」

加藤「ただ、何役も演じる場合は通常は、わかりやすく役を変えて見せるんですよ。簡単な例だと、衣装を変えるとかね。でも今回は、ヘンリー役で1行読んで、叔母さん役で次の1行を読んで、そして次の1行はまたヘンリー役だったりするから衣装は変えられないんです」

―――連続で何役も演じる、落語みたいな感じでしょうか?

加藤「そうそう、そういうイメージです。落語の場合は出演者が少ないからわかりやすいけれど、これは全部で24役もある。だから、何かわかりやすい仕掛けをつくらないと、役が切り替わったことがわからない場面もあるんですよ。何か様式を作って『ああ、こういうふうに役が変わるのか』とお客さんに理解していただかなければいけない。そこは演出家の手腕ですね」

―――鵜山さんがこの戯曲をどう表現されるつもりなのか……と。

加藤「原作の小説はいろいろな場所へ旅をしていて、きっと映像作品にすれば綺麗だろうなと思うんですが、この戯曲は舞台でしかできない面白さに挑戦してるような気がするんです。作家も挑戦しているし、これから演出家も挑戦していく。絶対に映像では作れない醍醐味を目指したいですね。たとえば歌舞伎なんかは何百年もかけて、映画ではできないやり方になっていますよね。“みえをきる”なんて日常生活ではやらないけれど、みえをきることで面白くてリアリティを持って見えてくる。そういった面白さをどんどん作れれば面白いですね」

―――実際稽古が始まり、2日目ですがいかがですか?

天宮「自分1人で黙読していた時に考えていたこととは全然違うなぁ、ということの連続です。とくに今回は4人でヘンリーを演じるので、初めて本読みをした時に加藤さんのヘンリーの第一声に『こう来るか!』と。次の清水さんヘンリーの台詞にも『こう来るか!』ということが重なって、じゃあ自分はヘンリーを演じる時にどこにどう寄せていこうかと考えるのがまた面白い。さらに鵜山さんがアドバイスをしてくださることで、ヘンリーという人物がさらに膨らんでいきます」

清水「私はつくづく自分のレパートリーの無さに愕然としています(笑)。これから役を自分のものにしていかなければいけませんが、この物語は4人でヘンリーを演じたり、ヘンリーの目を通して見えるたくさんの人達の姿を演じなければいけないので、4人の焦点を合わせていく共同作業が大変なんでしょうね」

義宗「4人のチームワークが重要な作品だと思います。映像だとスパッと画面が切り替わるだけでシーンが変わりますが、舞台だときっと何かしらが起きて場面転換していくので、そこにお客さんをどれだけ巻き込めるのかが楽しみですね」

加藤「チームワークが合わなかったら終わりだよね」

全員「(笑)」

義宗「今まで真面目に働いていたヘンリーが、ものすごい磁力を持った叔母にガンガン引き寄せられちゃうんですよ。次々といろんな場所に旅するので、それが舞台で表現できたらとても面白いでしょうね」

トルコ、パラグアイ、アルゼンチン……驚きと恐怖とワクワクの旅へ!

―――劇中にはいろんな場所が出てきますが、興味を惹かれる場所はありますか?

天宮「どこも行ったことがないので全部行ってみたいな! オーガスタ叔母さんはかなりコアな場所をチョイスしていますけど」

清水「命の危険があるかもれませんよ?」

天宮「そうなんだよね! 帰って来られないんじゃないのかという場所にも行く」

加藤「物語に出てくるのは、トルコや南米が多いですよね」

天宮「石油が出て、貧富の差があるところが気になりますね」

清水「パラグアイですね」

天宮「そう、アスンシオン(パラグアイの首都)! ちょっと行ってみたいなぁ」

清水「僕はアルゼンチンかな」

加藤「僕は……実は世界で一番幸せを感じる国(ブータン)に行ってみたいんですけど、残念ながらこの作品には出てこないんですよね。でも隣国のネパールは出てきます。のんびりして良い国ですね。だからオーガスタ叔母さんはすごいです。75歳で平気で南米に行っちゃうんだもん。怖いもの知らずですよね」

―――憧れます?

加藤「いや、憧れません」

全員「(笑)」

加藤「あの叔母さんは危険すぎる! 警察に捕まっちゃったり、金の延べ棒を海外に持ち出したり!」

清水「そばにいたら迷惑な叔母さんですよ(笑)」

天宮「行く場所も、すごくいかがわしい場所は本当にいかがわしいんだろうしね……。でも叔母さんに磁石のようにぎゅうぎゅうと引っ付いていって、見るものすべてが驚きと恐怖に溢れているのに、『俺、こんなにワクワクしちゃってる!』と感じるヘンリーもいる。『やっぱりこっちの方が楽しい! 今までのことは全部やーめた!』と言っちゃえる幸せを、観てくださる方々にエクスキューズできるかもしれない」

義宗「最初に登場する、オーガスタ叔母さんが住んでいるいかがわしいアパートは気になります(笑)」

加藤「ワーズワース(劇中の登場人物の1人)の生まれ故郷も」

清水「シエラレオネの港街も! それから、有名な桟橋のパレス・ピアにも行ってみたい」

天宮「ブライトン(イギリス)にあるところですね! あと僕は、加藤さんのカンパニーとの旅も楽しみですよ。」

加藤「旅公演はね楽しいですよね、1日拘束2時間で、舞台以外の22時間は自由時間」

全員「(笑)」

―――今回も様々な地域で『叔母との旅』を上演しますね! 加藤さんにとって旅公演は欠かせませんが、一番のモチベーションは?

加藤「旅公演が好きじゃない人は結構いて、東京に恋人がいるとか、新婚だとか、東京でしかできない趣味を持っているとか……ある俳優はいつも100号くらいの絵を描いていて、描けないと落ち着かないという方もいました。でも僕は、渡っていくのがそもそも好き。お客さんが毎日変わって自然な反応をくださるので、旅公演は好きですね。今回もとても楽しみですよ」

―――”加藤さんとの旅”もどんなワクワクが飛び出すか、楽しみにしております!

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

加藤健一(かとう・けんいち)
静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(1982、1994年)、文化庁芸術祭賞(1988、1990、1994、2001年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(2002年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(2004年)、第38回菊田一夫演劇賞(2013年)、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。2016年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。

天宮 良(あまみや・りょう)
東京都出身。1984年に日本テレビ『昨日、悲別』でタップ・ダンスを目指す主人公役でデビュー。同年「ミッドナイト・ジャクソン」で歌手デビューも果たす。以後、テレビ、映画、ミュージカル、コンサートと幅広く活躍。2000年ごろから俳優業に専念。映像ではドラマ『山田村ワルツ』、『滝廉太郎物語ー我が愛の譜』、銀河テレビ小説『ひとり言の時代』、ドラマ人間模様『婚約』などに出演。最近の舞台は2019年『グリークス』KAAT、2021年ミュージカル『GOYA』日生劇場・御園座、2021年『羽世保スウィングボーイズ』博多座など。

清水明彦(しみず・あきひこ)
千葉県出身。1986年に文学座附属演劇研究所入所、1991年に座員となる。舞台を中心に、テレビドラマ、映画、吹き替え、ラジオドラマなど幅広く活動。最近の舞台は2012・2015年『バカのカベ』、2019年『パパ、I LOVE YOU!』加藤健一事務所、2016年『野鴨』、2017・2020年『大空の虹を見ると私の心は躍る』文学座、2018・2021年『罠』、2020年『嘘』俳優座劇場、2021年『青空の休暇』イッツフォーリーズなど。

加藤義宗(かとう・よしむね)
東京都出身。1996年、加藤健一事務所プロデュース公演『私はラッパポートじゃないよ』で初舞台ののち、2002、加藤健一事務所俳優教室に入所(17期)。父・加藤健一に師事し、俳優修行のみならず裏方修行も経験し、舞台俳優として基礎を一から学ぶ。舞台『煙が目にしみる』、『モリー先生との火曜日』などの他、テレビやCMにも出演。2020年には、自ら立ち上げたプロデュースユニット「義庵」第一回公演として、バリー・コリンズ作『審判』(演出:加藤健一)に挑戦した。

公演情報

加藤健一事務所 vol.111
『叔母との旅

日:2021年11月22日(月)~28日(日) 
場:サンシャイン劇場
料:7,000円
  高校生以下3,500円 ※要学生証提示・当日のみ
 (全席指定・税込)
HP:http://katoken.la.coocan.jp/
問:加藤健一事務所 tel.03-3557-0789

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