上村聡史の芸術監督就任後初となる舞台『巨匠とマルガリータ』の制作発表会見が、10月5日に新国立劇場にて開催された。
今回上演されるのは、ミハイル・ブルガーコフの原作小説を基にしたエドワード・ケンプによる戯曲版。主人公の巨匠を、小説家から劇作家に置き換えて翻案したバージョンとなる。
会見には上村聡史(演出・芸術監督)、小田島創志(翻訳)、さらに成河、花乃まりあ、篠井英介、松島庄汰、菅原永二、大鷹明良をはじめとする18名のキャスト、総勢20名が登壇。抽選で選ばれた一般オーディエンス50名も参加した。
冒頭の挨拶で「“物語のアップデート”と称しまして、現代演劇を刷新していくような作品を作っていけたら」と述べたのは、演出・芸術監督の上村。就任第一作に『巨匠とマルガリータ』を選んだ理由について、「自分以外の他者がいることの尊さや、自分と他者の間に生まれる想像力、信じる力や愛する力が根底に流れている作品です。表現を新しくしていくのと同時に、忘れてはいけないものも大事にして作品を作っていきたい。故に、この作品で新しいシーズンを迎えたいと思います」と意気込んだ。
翻訳の小田島は、エドワード・ケンプ版の戯曲の魅力を語る。
「原作小説の順序を入れ替えることで、演劇でやることの意味をすごく感じる、物語に引き込まれる構成になっていると思います。とてもポエティックな部分やコミカルな部分も豊富に含まれている台本なので、翻訳はかなり難しいのですが、訳していてワクワクする作品でした。舞台で立ち上がったときにどういうシーンになるんだろうと、想像するのが非常に楽しい作品です」と期待を寄せた。
18名のキャスト陣は、今感じている本公演の見どころをひとつずつ挙げていった。
花乃まりあ「実はまだ稽古していないシーンで、ちょうど今日稽古する予定なんですけれど、空を飛ぶシーンがあります。そこがどんな演出になるのか、私自身も楽しみにしておりますので、ぜひご注目ください」
篠井英介「正直に言いますが、手強い作品です。やる方も観る方も手強いです。ですがご心配なく。ご覧になっているみなさまにも、僕たちにも、素晴らしく豊かな想像力があります。それをフルに活かしていただくことで、この作品を大変面白いものとしてご覧いただけると思います。見どころは、私の悪魔ぶりでございます」
松島庄汰「言葉が、この作品の見どころかなと思います。ブルガーコフの人生が非常によく投影されていて、半分くらいは自伝なんじゃないかなと僕は勝手に思っております。言葉を読んでいても、彼の人生や時代がとても滲み出ていて、怖いくらいに言葉が心に刺さってくるんです。ぜひ、言葉を楽しみにしていただければなと思います」
菅原永二「悪魔が大活躍するお話なので、その辺りを中心に観ていただければと思います。見どころとしては、悪魔がダークヒーロー的な立場で登場する痛快なシーンがありますので、みなさまお楽しみに」
大鷹明良「ピラトは今から20世紀も前の人物で、彼の人となりというものは全然出てこないんですね。けれどこの作品でのピラトは人間味のある人物像になっており、キリストの処刑について後悔しているんじゃないか。そして、その後悔は現在まで続いているんじゃないか、という描かれ方をされています。見どころは人間味ということですね。そしてそれは、他のどの人物にもあると思います」
他キャスト陣も、見どころについて「ブルガーコフの魔術のような物語」「本役以外にもいろいろな出方をするところ」「原作小説にないシーン」「抑圧されたモスクワ市民たち」「喋る猫」など、それぞれの視点で本作の魅力を語った。
質疑応答で、最初に戯曲を読んだときの感想を問われた大鷹は、ブルガーコフが1928年〜1940年にかけて小説を書き、その後も日の目を見るまでに長い時間がかかったことに触れた。続けて「そんな作品を今上演できるのは意義があることだなと思います。今読んでも、本当に面白いという印象でした」と感慨深げに語る。
成河は「原作小説を初めて読んだときにゲラゲラ笑いながら読めて、それにびっくりしました。誤解を恐れずに言えば、エンタメ小説。アンチテーゼや社会風刺のあとに、突き抜けた荒唐無稽さがある。まだやるのかというツッコミどころがとても自覚的に書かれていて、(ブルガーコフは)エンタメ精神がある人なんだなと思いました」と笑顔を見せた。一方の菅原は「僕は最初はなんだかわからないなあという印象でした。正直に申し上げて難解だなと。今は1週間ほど稽古をして、どんどん作品が立ち上がってきているので、わかってきたような感覚があります」と率直な感想を述べていた。
「人間の弱さは何千年も変わっていないんだなあと、励まされた気持ちにもなった」と振り返るのは松島。自身が演じる役については「お客様の目線に一番近いキャラクターだと思います。もしみなさまがこの芝居を観て『置いていかれたかな?』と思ったら、僕の顔を見ていただければ同じ顔をしていると思います」と、会場の笑いを誘った。
観劇の前に予習すべきことを問われた小田島は「特にないんじゃないでしょうか。ストーリーの展開がとても早いので、体感10分くらいで終わってしまうかも(笑)。あっという間に終わる面白さが詰まった作品になると思います。しいて言うなら今回はケンプ版ならではの構成なので、原作と見比べていただくと違いがわかって面白いかもしれません」と、疾走感のある本作の魅力に触れた。
現在行われている稽古について「圧力鍋の料理をしているように、グッと密度が高いクリエーションができている」と表現した上村。するとキャスト陣もそれにならって、今の稽古の様子を語っていく。篠井は「上村さんの芯にある想いが、圧力鍋なんだと思うんですね。その圧力鍋に僕たちは放り込まれて、もがいて、ちょっと沸騰とかしながら、最終的にはその圧力鍋が破裂してしまう(笑)」。続けて花乃も「上村さんが、毎日すごくご機嫌にお鍋をかき混ぜてくださっているという感じで、私個人としてはとても幸せな気持ちで煮込まれています。これから沸騰したり吹きこぼれたりすることもあるかもしれませんが、楽しく豊かな稽古期間になると思います」と語り、会場に和やかな空気が広がった。
最後に、上村は改めてブルガーコフ作品の魅力を語った。「白と黒というものがあったら、その間にある“あわい”というものがこの世界には溢れていて、そこを見つめた作家。そこを見つめるからこそ、生きていく面白さや豊かさがあるんじゃないかと。そういうことが、彼の視点のひとつにあると思います。急いで進んでいく時間の中で、どうしても僕らは一面的なところでジャッジしてしまうところがあります。けれどそうじゃないところに、生活や人生というものを導いていけたらなと。すごくおこがましいんですけれども、舞台芸術を通して、そしてブルガーコフの視点を借りて、今の時代に上演するというところがポイントだと思います」。
本公演は、11月7日から11月23日まで東京・新国立劇場 中劇場にて上演される。また、20歳以下を無料招待する「シアターデイ」が新たに創設され、さらに「U39」の導入、「U25」の料金改定など若い世代に向けた3つの優待プランも始動する。
取材・文:松村蘭(らんねえ)
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◆公演概要
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇 上村聡史演劇芸術監督シーズン開幕
『巨匠とマルガリータ』
【日程/会場】
2026年 11月7日(土)〜11月23日(月・祝)
新国立劇場 中劇場
【スタッフ】
原作:ミハイル・ブルガーコフ
翻案:エドワード・ケンプ
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
【出演】
成河 花乃まりあ 松島庄汰 菅原永二
明星真由美 小松利昌 富山えり子 内田健介 山本圭祐 山森大輔
柴 一平 釆澤靖起 近藤 隼 猪俣三四郎 篠原初実 笹原翔太
大鷹明良 篠井英介
【各種公式】
公演公式:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-master-and-margarita/
公式 X(旧 Twitter):@nntt_engeki