レストランや電車の中で芝居をするなど、ユニークな活動で知られる大阪の劇団「山尾企画」。劇場公演としてはほぼ1年ぶりとなる新作『おいでよ! テアトル堺~ウチらで映画を作るでしかし~』を、主宰で作・演出の山尾匠が生まれ育った堺市の「フェニーチェ堺」で発表する。クリエイターの情熱と地元愛にあふれた作品を、演出の異なるダブルキャストで上演するのが見どころとなる、本作の稽古の様子を取材した。
『おいでよ! テアトル堺』が生まれたきっかけについて、山尾は「僕にとっては凱旋公演に当たるので、やっぱり生まれ育った堺をモチーフにしたいと思ったのが始まり。さらに、僕が高校時代に映像や写真の勉強をしていたので『なぜ僕はお話を作るのだろう?』というルーツのことも考えて、今回の話ができました」と語る。堺で「地元を舞台にした映画」のコンクールが開かれることになったのをきっかけに、堺で映画を撮ろうとする人々の姿を描いた群像劇となっている。
冒頭に登場したのは、物語の中心となる太陽と喜多風のコンビ。幼い頃そろって映画に夢中になり、将来は一緒に映画を撮る約束をした2人。しかし太陽は大学で映画作りを止め、看護師となって地元の病院で働き、一方喜多風は東京で小さな役をもらいながら俳優を続けていた。地元の商店街の人たちに映画作りを懇願された太陽と、たまたま地元に戻っていた喜多風が再会したことで、映画づくりは動き出す。
この2人の物語に加えて「いつもコートを預けに来る紳士に好意を寄せる、クリーニング店で働くダンサー・月子+被写体としての彼女に惚れこむカメラマン・満」「冴えない大学生・根子+記憶をなくした動く死体・白骨」「行方不明になった父を案じる漁師・浦川+彼が海で助けた歌好きの女性・乙姫」の話も並行して語られる。浦川が太陽の親戚だったり、根子が知らぬ間に太陽の手伝いを引き受けたなどの縁がつながり、全員が映画に協力することになるが……。
この日稽古が行われたのは「本線SIDE」「高野線SIDE」(南海電鉄沿線の人なら、この名称でニヤリとするはず)のうちの、高野線SIDEのキャスト。脚本は同じだけど、本線はにぎやかなエンタメ性を重視、高野線は会話と演技をじっくり見せることを重視と、色合いが分かれている。その狙い通り、この日の稽古では「どういった心境でその演技が生まれるのか?」ということを、山尾と俳優が考える時間が、かなり多めに取られていた。
特に印象に残ったのが、月子の演技の変化。エモーショナルな演技が多い役だけど、月子役の俳優は経験が浅いということもあり、ちょっと苦戦している様子だった。そこで山尾は「私に何ができるんだろう?」という俳優のリアルな不安を、そのまま利用することを提案。満に言われるがまま映画に出ることになったために、何をしていいのかわからないという月子の立ち位置は、まだ演技を探っている最中の俳優自身の気持ちと、確かに似通っているように思える。
さらに、山尾の理想とするアップテンポの会話に近づけるために「満との会話は、ドッジボールをしているような気持ちで」という演出が。再びそのシーンの稽古が行われた時には、明らかに月子の感情がさっきよりも膨らんでいるのが感じ取れた。本番までには、さらに感情を揺さぶってくるシーンになるのではないだろうか。
山尾がしばしば俳優たちに求めたのは、観客の心を舞台に引き寄せるための演技だ。たとえば、主なキャストが次々に登場するオープニングやダンスシーンは、演じる側が明らかに楽しそうなシーンだけに「自分たちだけで楽しくならず、お客様に『この芝居はこういうノリです!』というのをキチンと伝えて、巻き込むことを意識して」というアドバイスが。さらに海に沈む夕陽を眺めるシーンでは、俳優の目線が実際の夕陽の動きと違うことを鋭く指摘。「なぜそこに目線を送ったのか?」と問うことで、キャラクターの心象と演技のリアリティを再確認させていた。
山尾がここまで、各人物の内面を俳優に突き詰めさせるのには、観客に登場人物に同調してほしいという希望があるからだそう。「今回は『大人の青春群像劇』というジャンル。この人がなぜここにいるのか? ということを、それぞれのキャラクターは知らないけど、お客さんは知っているという状態なんです。そのつながりを楽しむのと同時に『この人は私と一緒だ』など、いろんな思いを馳せてくれたらと思います」と語る。一方、今回は立ち会えなかった本線SIDEは「アゲアゲで行くぜ! じゃないですけど、楽しい笑いがいっぱいあるみたいな感じになります」と違いを明かした。
実際、高野線SIDEもシリアスなだけではなく、大阪らしい笑いもいっぱいある。なかでも、白骨が皆の前に初めて登場するシーンや、乙姫が「吉本新喜劇」の未知やすえばりに、声色を使い分けて場をコントロールしていく所では、稽古場にいる人たちが思わず声を出して笑っていた。さらには、堺の人なら「あー、あるある」と思い、ほかのエリアの人たちは「何ですか、それ?」と唖然とするような地元ネタも豊富で、そういう点でも客席は不思議な盛り上がり方になりそうだ。
今回の芝居で、まず山尾が目指しているのは「『きっとあなたもこの街が好きになる』というキャッチコピー通り、堺を好きになってほしい」ということ。そしてそれぞれの人が「故郷」について、改めて考えてほしいということだ。
「僕の場合は故郷が堺ですけど、みんな自分にしかわからない故郷があると思うんです。主人公は映画作りを通して『地元ってなんだろう?』って悩むんですけど、彼女と同じ様に、自分にとっての故郷を思い出してくれたらいいな、と。あれがあるから地元なんだ、あの人がいるから故郷なんだと、それまで育ってきたいろんなことを思い返しながら、一緒に映画を作っている人間の一人のような気持ちになって、観てくれたら嬉しいなと思います」。
ネタバレNGとのことで、ここでは詳しくは書けないけど、本当に堺市民なら盛り上がりそうなローカルネタがいろいろ入っているので、特に堺の人たちは観に行ってみてほしい。逆に堺市民以外なら「そんなものがあるのか!」「あ、それって堺発なんだ」などの発見を楽しめることだろう。そしてどちらかのバージョンを観て気に入ったなら、もう1つのバージョンの方もぜひチェックして!
(文・写真 吉永 美和子)
公演概要
山尾企画第十三次公演「おいでよ!テアトル堺~ウチらで映画を作るでしかし~」
公演期間:2026年10月31日 (土) 〜 2026年11月1日 (日)
会場:フェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)小ホール
■出演者
本線SIDE
稲星みのり、山根明莉、ベル、徳丸一円(劇団Lacrimosa)、坪坂和則、東新優太、露の新幸、花うらら
高野線SIDE
天希明日香、大内万奈、高田亜美(イロハ)、たろう(PROJECTおふざけチャン。)、河本久和、みらいかん(劇団カオス)、ツジコウイチ(河童のヨーコ/コッコア)、長井瑠花
演奏
KENG、芳本春治
■スタッフ
脚本と演出
山尾 匠
スタッフ
舞台監督・舞台美術:山尾 匠
音響:下田要(Active-t2003)
照明:北枕すゞめ(ウチポケっと.Inc/横連合)
当日制作:梨 紗
ワードローブ:葵P
企画・運営:山尾企画
後援:堺市・堺市教育委員会
関西元気文化圏参加事業
■公演スケジュール
2026年10月31日(土) 15:00 〈本線SIDE〉
2026年10月31日(土) 19:00 〈高野線SIDE〉
2026年11月1日(日) 11:00 〈高野線SIDE〉
2026年11月1日(日) 15:00 〈本線SIDE〉
※受付開始は開演の60分前、開場開始は開演の45分前です
※上演時間は110分を予定しています。
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