◆Introduction
“わたし”の順風満帆な人生――胸を衝く〈結末〉。人間社会のリアルを映す一人芝居
ミュージカル『マチルダ』の脚本でも知られる、デニス・ケリーが2018年に書いた傑作一人芝居を日本初演します。
ロンドン・ロイヤルコートシアターにてキャリー・マリガン主演で初演された本作は高い評価を受け、のちにブロードウェイでも上演されました。 ある一人の女性の人生を追いながら、愛、結婚、仕事、そして出会いと喪失を描くこの作品は、順調に見えていた人生が予期せぬかたちで崩れていく過程を通して、現代社会に潜むさまざまな歪みを浮き彫りにします。
新国立劇場主催公演史上初の一人芝居となる本公演の演出は、新国立劇場でも『私の一ヶ月』『誤解』で繊細な心理描写と大胆な空間設計を魅せてきた稲葉賀恵が担います。
そして、ただ一人の登場人物である主人公の女性役には、真飛 聖が稲葉との初タッグで挑みます。さらに今回の上演では、より多角的な視点から作品に迫るため、公募オーディションで選ばれた異なる世代の俳優・増岡裕子とのダブルキャストでお送りいたします。
シンプルな構成ながら、俳優の身体性と語りの力が問われる濃密で挑戦的な本作。真飛 聖と増岡裕子、それぞれが稲葉と二人三脚で創り上げる一人芝居に、ぜひご期待ください。
◆開幕間近!真飛聖×増岡裕子による対談インタビューを公開!!
――最初に脚本を読まれた際の印象、感想、衝撃などを教えてください。
真飛 ひと言で「楽しい」とか「面白い」と言えない作品でした。人から「面白い?」と聞かれても、「面白いよ」と簡単には言えない。ただ「すごい」という感覚がありました。「いや、すごかったんだよね…」という、それが第一印象ですね。
「コメディ?シリアス?」と聞かれても「うーん、どっちも?」みたいに曖昧で。強烈なジェットコースターのような展開なんですが、主人公の「わたし」の話に、「わかる!」と思う瞬間があったり、一緒に腹が立ったり、「え?そんなことあったの?」と思ったり。時には「大丈夫、大丈夫!」って円陣を組みたくなる。読み進めるほど、お客様との距離が近くなるような感覚があって、“物語”というより、そこにいるみんなでお話を聞きながら一緒の時間を過ごしていくような作品だと受け止めました。
――ご自身で演じるというのは読みながらイメージできましたか?
真飛 普段は客観的にフラットに読むんですが、今回は最初から「自分がそこにいる」感覚でした。
――読んだ瞬間から「これは自分の物語だ」と?
真飛 はい。直感的に「これは私がやるもの」「挑戦していくもの」だと感じたんです。「やらせてもらう」じゃなくて、「自分が立ち向かうものだ」という強い感覚があって。いまもその直感を大事に持っています。
――増岡さんはいかがですか?
増岡 私が台本を最初に読んだのはオーディションのときで、はじめは冒頭の部分しか渡されてなかったんです。冒頭はコミカルな台詞も多くて、すごく楽しくて「明るい話だな」と思っていたら、最終選考の前に全文が渡されて……もう衝撃でした。奈落の底に突き落とされたような……。
でも難しい話ではなくて、すいすい読めちゃうんですよね。「わたし」という人物に共感する部分も多くて、「うわ、わかる!」と読み進めていったら、いつの間にか巻き込まれてるみたいな(笑)。 思いもよらない地点に立っちゃったみたいな……そういう怖さを含んだ戯曲だと思いました。本当にすごい戯曲です。
――「共感」されたというのは具体的にどんなところですか?
増岡 主人公は子どもを産んで、キャリアと子育てのバランスの中にいる女性です。私自身も4歳の娘がいて、しばらく舞台をお休みしていた時期があり徐々に仕事を再開していったんですが、夫との関係の中で「育児どっちがやるの問題」みたいなことが本当に日常茶飯事で。「これをやるのは私が女だから?」「でもあなたもパパなんだからやってもいいよね?」みたいな。キャリアを持つ母親として夫との関係性の中にいる感じが、本当に自分のことのようで、「うわぁ…」って。
ただ、この作品を書いたのが男性(デニス・ケリー)というのが本当に救いだなと思いました。女性が書いていたら、女性だけの声になりがちだけど、男性が書いているからこそ、声を大にして言えるというのはありますね。
――真飛さんが出演を決めたことについて「直感的に」という言葉がありました。直感に理屈をつけていただくのも恐縮ですが、何か出演に駆り立てるものがあったのでしょうか?
真飛 本当に偉そうなんですけど、やっぱり舞台で育ったので、自分の心が動かないと舞台に立てないんですね。舞台って本当に大変なんですよ。これまで魂を注ぎ込んで、メンタルや自分の維持、健康管理もやってきたので、自分の中で腹をくくって「これはやりたい」って思えないと、生半可な気持ちで舞台に立つのは失礼だと思ってるんです。この台本を読んだときには、直感というか、「これはやる」「やらない選択肢がない」「断る理由がない」と感じました。「やってみたい」じゃなくて「うん、やる」という感じ。自分の中で、いま挑戦するべきものなんだなと思えたので、出演を決めました。
――「ひとり芝居」という点に関しては?
真飛 「ひとり芝居」と思うと身構えちゃうので、私たち、見出したんです。巻き込みます、客席を。ひとりじゃなくて、客席も含めて“みんなの芝居“。劇場はカウンセリングルームで、観に来てくださるお客様もいろんな悩みや聞いてほしいことを抱えて来ている。そこでたまたま私の番が来たから喋ってます、という感じです。お客様へ問いかけるセリフもたくさんあるので、そういうときにみんな普通に頷ける距離感、同じ土俵で、みんなが私の話を「わかる」と聞いてくれる場所ぐらいの感覚がいいなって言ったら、増岡さんが「それ、めっちゃいい!」って共感してくれました。
だから、ひとり芝居じゃないんです。“みんな芝居”! お客様の想像力で、子どもや夫などの登場人物が立ち上がる。それがひとり芝居の面白さだと思うので、それこそ本当に巻き込まないと。心をたくさん動かしながら観ていただきたいなと思っています。
――増岡さんは、話の結末を知らずに飛び込んだとのことですが、出演に駆り立てたものは?
増岡 ちょうどいま40歳になり、「不惑」なんて言われますけど、もう惑い過ぎちゃっていて(苦笑)。オーディションの募集要項に書かれた作品説明を読んだときに、いまの私とすごくリンクする話なんじゃないかなって。これも直感でしたが、ぴったりだったなと思っています。結末にはびっくりしましたが、これはいまの私が通る道なんじゃないか? という思いがありました。
――最初に真飛さんの出演が発表され、ダブルキャストの公募オーディションが開催されて増岡さんの出演が決定しました。世代の異なるお二人ですが、お互いの存在についてどのように捉えられていますか?
真飛 面白いですよね。同じセリフでも年齢や経験で、絶対に伝わり方が変わると思うんですよ。それもまたお客様の想像力次第だし、たぶん全然違った色になるのかなと思います。私は、ダブルキャストはミュージカルでしか経験がないんですけど、やっぱり比較されがちで、ある意味でプレッシャーも感じます。ただ、今回はひとり芝居。私と増岡さんにしか味わえない、感じられないことがあって、それは(演出の)稲葉さんにもわからない、舞台に立つ私たちだけの領域。だから、最大の味方、同志だと思っています。わからないことはガンガン聞いていこうと思うし、「この解釈どう思う?」とか「この方が面白いかな?」とか、お客様にどうしたら楽しんでもらえるか、どうしたら面白がってもらえるかを模索する時間が一緒に作れたらと思います。お客様には、「別々の人で、こんなに違う見え方がするんだ!」というのを面白がっていただきたいと思うし、私は増岡さんという最大の味方ができて、すごく心強いです。
増岡 私も最初は、ダブルキャストを自分はどういうふうに感じるかなと思ったんですけど、タイプが違う二人なので、全然違うものになるのは目に見えていて、私も真飛さんバージョンがものすごく楽しみです。稽古が始まったら、わからないところは聞きたいですし、相談に乗ってほしいなって思います。 本当に戦友のような……。
真飛 たぶん、千秋楽を迎えたときに、抱き合って泣いてると思うし、その景色が見たいよね。その未来を目標に頑張りたいです。
――まだ、お会いして間もないとは思いますが、お互いの印象についてお聞かせください。
増岡 私は、実は、真飛さんの退団公演を15年前に観ているんです。しかも、それが初めての宝塚観劇だったんです。「こんなかっこいい人がこの世にいるんだ!」と感動して、クリアファイルを買ったりとかして……。
まさか15年後にこんなご縁があるとは夢にも思いませんでした。本当に光栄です。
真飛 それを聞いたときは大爆笑しました(笑)。「えぇぇ…!?」って。でも、本当に巡り会うべくして出会ったのだと思います。
去年の暮れにポスター撮影で初めてお会いして、会った瞬間に「あ、大丈夫だ」と思いました。この人となら一緒に戦える――「戦う」って言い方は悪い意味ではなくて、乗り越えられる! まっすぐで、本気で、嘘がなくて、この人とだったらやれる! っていう、これも直感です。だからすごく安心しています。
実は私たち名前も同じ「裕子」なんです。私は「真飛聖」という名前で活動していますが、本名が「裕子」で。
増岡 漢字まで一緒で、しかも2人ともてんびん座です(笑)。
――演出の稲葉さんの印象、これから演出を受けるということで楽しみにされていることはありますか?
増岡 稲葉さんは文学座の一期後輩なんです。稲葉さんの演出を受けるのは10年ぶりで、シアタートラムさんで「趣向 『解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話』」という、女性9人の芝居でご一緒しました。稲葉さんは、もちろん大胆な演出もされるんですけど、細部へのこだわりがすごい。細部に彼女の心意気みたいなものが詰まっているんですね。当時の稽古場では、結構悩みながら、相談しながら創っていくという感じでした。そうして粘りに粘って、もうちょっと違うトライをしてみようって言いながら、磨きに磨いていく演出がとっても素敵だなと思っていたので、今回またご一緒できるのが本当にすごく嬉しいです。
真飛 私は今回、稲葉さんとご一緒するのが初めてなので、逆にフラットな状態で臨めるかなと思っています。何も知らないからこそ、ぶつかり稽古ですね(笑)。私自身は2年半ぶりの舞台なので、自分の中でも忘れかけている舞台のいろんな感覚を稽古の中で思い出すところがあると思います。ですが、舞台が自分の原点であり、舞台から始まっている人間なので、稲葉さんに一生懸命ぶつかっていけば、全部受け止めてくれると信じていますし、それをいまから楽しみにしています。
――決して難しい話ではないですし「そうそう!」「わかる!」という部分もありつつ、テーマには「男性の暴力性」についても描かれていて、男性と女性でまた受け止め方が変わってくる物語でもあるのかなと思います。決して分断を煽るような話ではないですが、そうした部分をおふたりは、どのように受け止められましたか?
増岡 決して「男性NO!」みたいな、男性を敵視する作品ではなくて、むしろ歩み寄りの物語だと思っています。男性と女性のすれ違いは永遠のテーマですが、話すことでだんだん近くなっていったらいいなという思いはありますね。
いわゆる「男性らしさ」とか「女性らしさ」といった固定観念はだんだん薄れてはきているけれど、まだ根強く残っているところもあるから、そこをもう一度考えてみようという作品なのかなと。
真飛 本当にそう思います。決して否定しているわけではなく、どちらが上とか下という話でもない。「生きていく」って、歩み寄りであり、尊重だと思うんです。作品を観ながら、「自分ならどういうふうに思うだろう?」「相手に対してこういうことをしていないかな?」と、気付かされる時間にもなると思います。
――男性の嫉妬などが描かれる部分もあり、改めて男性の作家がこの物語を書いたという部分で「なるほど」と思わされるところも多いです。
真飛 「人の振り見て我が振り直せ」ではないけど、女性も男性もお互いに気づかされることが絶対あると思います。例えばパートナーとの関係も、相手に押しつけるんじゃなく、まず自問自答ができないとダメなんじゃないかとか、それぞれに考えることになるんじゃないかな。
増岡 自分自身の夫婦生活をふり返って、私もものすごく反省しました。この戯曲がバイブルみたいになってます、いま(笑)。「男性ってこういう感覚なのか」と思うと、理解が深まるというか。とにかく発見がたくさんある戯曲でした。
真飛 これを男性が書いているということは、男性側も自覚しているということですよね?
増岡 そこがすごいですよね。
――最後に楽しみにされているみなさんにメッセージをお願いします。
真飛 先ほども言いましたが、本当に“みんな芝居”なので!
増岡 ひとり芝居だと思うと、やっぱりどうしても観る方も身構えちゃうと思うんですけど、それは外してきていただいて。難しいお話ではないので、鎧をとっぱらっていらしていただけたらありがたいなと思います。
真飛 できればTシャツ短パンで来てください(笑)。かしこまった感じだと、こちらもドキドキしちゃうので。「ちょっと雑談に来ました」「お迎えまでの空き時間に喫茶店で話す?」みたいな、たまたまそのみんなが新国立劇場に集まっちゃったという、井戸端会議ぐらいのラフさで面白がりに来てください。ジェットコースターのような作品ですが、そうした感覚で共に時間を過ごしていただけたら嬉しいです。
取材=黒豆直樹
写真提供=新国立劇場
◆フォトギャラリー
写真提供=新国立劇場
◆公演情報
新国立劇場 2025/2026シーズン 演劇 いま、ここに――[1]
『ガールズ&ボーイズ』日本初演
【日程/会場】
2026年 4月9日(木)〜4月26日(日)
新国立劇場 小劇場
【出演】
真飛 聖 / 増岡裕子(Wキャスト)
【スタッフ】
作:デニス・ケリー
翻訳:小田島創志
演出:稲葉賀恵