サヨナラワーク『眠れぬ姫は夢を見る』:劇評

サヨナラワーク『眠れぬ姫は夢を見る』:劇評

夢と現実、フィクションとリアル……ゆるやかにその境が曖昧になっていく。サヨナラワーク『眠れぬ姫は夢を見る』は、解散したアイドルの再結成の話として始まるが、いつしか物語そのものが夢なのか妄想なのかもわからなくなってくる。そのファンタジー的な世界観は、サヨナラワークの特徴でもある。

サヨナラワークは2020年に結成された、演出家・深寅芥(みとら・あくた)と脚本家・Arryの演劇ユニットだ。コロナ禍で映像作品を制作・配信し、いずれも映像技術を用いて、日常的な世界がいつの間にか非日常と混ざりあっていくような演出を施してきた。今作『眠れぬ姫は夢を見る』はサヨナラワークとして初の劇場公演となる。これまで映像で表現してきたリアルとフィクションが交差していく様子は、劇場でも表現された。

2021年冬。数年前に解散した6人組の地下アイドルグループ、ネバーエンディングガールズ(ネバガル)の一夜限りの再結成ライブが開催される予定だ。しかしそこには、最年少メンバー・モア(南岡萌愛)の姿だけがない。

この再結成を機に、ローカル局のアナウンサー水野(水野奈月)はネバガルのメンバーに取材をすることに。それぞれへの取材を進めていくうちに、メンバー同士の関係性や、仕事への温度差などまで浮き彫りになってくる。そして、彼女たちの大きな傷となった2014年の“ある事件”が少しずつ明らかになっていく……。

基本的には水野によるインタビューという形をとりながら、メンバーが過去を振り返る。語られるのは、2011年にモアが加入した時から、2014年冬にモアが事件に巻き込まれるまでのことだ。

その後のグループ解散以降はそれぞれの人生を歩んでいるが、センターポジションの優羽(美澄優羽)、キャラ変を繰り返す萌子(桜羽萌子)、場を明るくまとめるマナ(丹羽まなえ)、リーダー気質のミヤトモ(宮本朋実)、無表情で感情の見えづらい杢原(杢原朱織)など、当時の各メンバーの視点から見えていた光景を振り返っていく。時には、同じ出来事が別のメンバーの視点から語られる。

複数の人物から過去が語られるため、当然ながら人によって視点や見えていた光景が異なる。それらが繰り返され、積み重なることで、「すべて事実なのだろうか?」と心許なくなるような、記憶の迷路に迷い込んだような感覚もうまれる。

劇中では何度も、童謡『森のくまさん』が歌われる。この歌詞は、森で出会ったクマから「逃げなさい」と言われ、逃げればクマから追いかけられるという、追いかけっこの様子だ。よくある歌われ方として、誰かが歌ったあとを追いかけるように、次の人が同じ歌詞を歌っていく。この”反復/繰り返し”は『眠れぬ姫は夢を見る』のキーワードでもある。劇中では繰り返し過去の記憶が語られ、繰り返し『森のくまさん』が歌われる。

この『森のくまさん』を歌うのは、キーパーソンとなるモアだ。モアは、優羽に憧れ、クマの被り物をしてまるで押し込み強盗のように「ネバガルに入りたい!」と事務所に突撃してきた少し変わった少女だった。メンバーそれぞれの口から語られるモアはいろいろな顔を見せ、彼女に対する違和感が募る。モアはいったいなにを考え、あの事件の日になにがあったのか。観客は水野の目線でネバガルや事件のことを知っていくのだが、実は“事件”そのものは本作のカギではないことが明らかになり、水野自身にも秘密があることがわかるにつれ、日常と非日常が入り混じっていく。

リアリティのある物語を観ているつもりが、いつの間にかファンタジー的な世界観に迷い込んでしまうのは、物語展開の仕掛けだけによるものではない。登場人物の役名は演じる役者の名前とほぼ同じで、「今語られているのはフィクションかリアルか」を曖昧にする構造を持っている。

さらには白くシンプルな舞台美術はどんな場所かを固定させず、そこに映されたプロジェクションマッピングにより空間が次々と表情を変える。映像によって繰り出される人工的な質感は、現実感を曖昧にさせていく。

夢か、現実か。不思議な感覚になりながらもすんなりと受け入れられるのは、そこに俳優の肉体があるからだ。とくに、語り部的な役割をも担っていた双葉(彩原双葉)と、取材者として客観的な立場であるはず水野が、日常と非日常を力強く橋渡ししていく。

もしこれが配信映像だったなら、「もしかすると映っているものは合成かもしれない」という俳優不在の可能性や、映像効果による画面の変化によって、違和感を強く感じさせるという演出が可能だ。もしかするとその方が、演劇よりもダイナミックな作品観賞となるかもしれない。

しかし演劇の場合、そこに間違いなく身体があることで、登場人物の繊細な揺らぎまで無意識に感じることができる。微かな目線の動き、小さな息遣い、寒さや温かさ、肌の質感まで……同じ空間にいるだけで、あえて意識していなくとも客席でキャッチできる情報は多い。そういった人間の機微には現実感がある。それなのに、目の前で起きている出来事が夢か現実か「気づいた時には」わからなくなりそうなのだ。「気づいた時には」といえるほど緩やかにいつの間にか引き込まれていく体験は、不思議だけれども心地よい違和感となって劇場を出た後も残り続ける。作品の中だけでなく、観客の日常と非日常をも入り混ぜていく、まるで“夢”を見ていたような演劇だった。

文:河野桃子

 

サヨナラワーク眠れぬ姫は夢を見る

<公演期間>
2021年12月15日 (水) ~2021年12月26日 (日) 東京・劇場HOPE

<出演者>

彩原双葉 / 桜羽萌子 / 丹羽まなえ / 美澄優羽 / 水野奈月 / 南岡萌愛 / 宮本朋実 / 杢原朱織

<スタッフ>
脚本: Arry / 演出: 深寅芥 / 演出助手: 嶋垣くらら / 舞台監督: 東野伸一 / 舞台美術: 小林奈月 / 照明: 今中一成 / 音響: 牛居朋広 / 当日運営: LUCKUP / 映像: アンドワーク / 宣伝美術: 吉田ユウヤ / Photo: 嶋垣くらら、深寅芥 / プロデューサー: 深寅芥 / 制作協力: 宮地成子 / 主催: (株)ネリム

<団体概要>
サヨナラワークとは
2020年に演出家・深寅芥と作家・Arryにより結成された演劇ユニット。
これまでの演劇の歴史がそうだったように現代演劇をこよなくリスペクトしつつも否定し
新しい演劇のかたちを私たちは追求していきます。
きっと世界中の誰もまだ見たことがない、
そんな新しいエンタメに向かって、私たちはサヨナラする活動を始めます。

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