【稽古場レポート】2024年の幕開けに、体感したい。ダンスと音楽、アートのカテゴリーを軽々と越境するA.P.I. 石山雄三の新作「(NO W)AVE」

アーティスト・コレクティブA.P.I.の新作「(NO W)AVE」が来年の1月7日と8日、大久保のR’s ART COURTで上演される。開催まで1ヶ月に迫った11月末に稽古場を訪問した。

アーティスト・コレクティブA.P.I. 石山雄三の最新作

A.P.I.とはパフォーマンス・メディア・アーティスト/コレオグラファーとして国際的に活動する石山雄三を中心としたアーティスト・コレクティブ。アーティスト・コレクティブとは、バンドやカンパニーのようにメンバーが固定された団体ではなく、公演ごとにそのテーマに合わせたメンバーが招集され、終わると解散する柔軟性に富んだアーティスト集団を指す。

A.P.I.は2016年には「0dB(ゼロ・デシベル)」プロジェクトをスタート。出演者も観客も全員が高音質のヘッドフォンをつけ、客観的には全くの無音となる中でダンスパフォーマンスを発表。「臨場感とは一体何なのか?」と観客に問いかけた。さらに昨年12月には同じR’s ART COURTで「S.S.S.S.」という新作ダンスパフォーマンスを発表し、その衝撃もまだ新しいところだ。

前作「S.S.S.S.」より。photo/Yohta kataoka (R’s ART COURT)

S.S.S.S.」より。photo/Yohta Kataoka (R’s ART COURT)

波風が立たない。=「孤立」とNOW「今」のダブルミーニング

S.S.S.S.」は、パフォーマーはマイクを使い、自らの動きをサウンドトラックに変換しながら、パフォーマンスをするものだった。新作「(NO W)AVE」はそこから発展させ、ワイヤレスデバイスを使い、音楽ライブとダンス公演のボーダーを取り払うものとなる。
タイトルのNO WAVEから70年代末にニューヨークで起こったアンダーグラウンドな音楽ムーブメントを想起させるが、石山は影響は受けてはいるが、直接的にはそうではないと言う。

NO WAVEとは、そのまま直訳して「波がない」。すなわち「波風が立たない」ことを意味し、コミュニケーション不在から生じる「孤立」を暗示している。括弧内の(NO W)は「今」という単語も内包する。
NO WAVEは広義な解釈だとNEW WAVE(ニュー・ウェイヴ)を揶揄する前衛的なアートシーンも意味し、そうした意味では本作も前衛的かつ挑戦的な作品となっている。

リアルタイムで発生させた音をループさせる。スリリングな展開

稽古場に着いてすぐ、そのサンプリングの方法を具体的に見せてもらった。サンプラー(ルーパー)はBOSSのRC-505mkⅡを使用。リアルタイムで演奏した音をその場で録音してループさせる、ヒューマンビートボックスでよく使われる機材だ。この日の稽古場では下手の手前に1つ設置してあったが、本番では左右に1台ずつ設置され、2人のダンサーが背中合わせで操作しながらパフォーマンスを繰り広げる。

ダンスの動きそのものを可聴化する

ワイヤレスデバイスは両手首に装着。腕を振ると音が発生し、そのゆらぎのある即興性の高い音をサンプラーが瞬時に取り込み、ループさせる。

驚いたことに、体を使って音を発生させるということが、手や身体の一部を叩くクラップ音や、足を踏み鳴らす音、心臓の鼓動を変換させるなど臓器から発生させる音ではなく、腕が空を切ることで、まるでその場の風の音を変換するような音を出すことだ。ダンスの動きそのものを可聴化するような新しい感覚を覚える。

有機的な音と遊ぶようなライブパフォーマンス

管楽器のように響いて、反響する不思議な音も発生していた。また腕をギターを弾くように体の前で動かすと、まさに強めのエフェクトをかけたギターのような音が発生。リハーサルにはそれを取り入れたパフォーマンスも見られた。無機質なサンプラーから発せられる予想外に有機的な音と、遊ぶようなパフォーマンス。それを見て当初描いていたイメージより、ずっと軽やかで新鮮な空気を感じた。

クラブミュージックの雄、CRZKNYの楽曲にも注目

本作では、前作の「S.S.S.S.」に引き続き、このダンサー自らが発生させる音と共にCRZKNY(クレイジーケニー)によるオリジナルサウンドトラックが使用される。CRZKNYは、シカゴ発祥のダンスミュージック、JUKE/FOOTWORK(ジューク/フットワーク)をオリジナリティ溢れる解釈をして、楽曲を制作する日本人アーティスト。2020年には、自身のレーベル「DONTKILLMYVIBE」を設立し、現在に至るまでクオリティの高い楽曲をハイペースでリリースしている。本作ではCRZKNYの「NOW」(今)も体感できるだろう。

JUKE/FOOTWORKは、独特なステップで知られるダンスと共に、クラブカルチャーを盛り上げてきた音楽ジャンルでもある。本作はクラブミュージック好きにも刺さる作品になるはずだ。

イマジネーションの幅を広げ、解釈を委ねる

リハーサルには、ここからもう一人のダンサー平多理恵子が加わり、前半のサンプラーを多用したシークエンスのリハーサルを見せていただいた。お互いの動きや立ち位置を微調整し、正面に設置したiPadの録画を見ながら全体のフォーメーションを決めていく。「ここで暗転、明転」などライティングのタイミングもすでに石山の頭にあるようだ。轟音のミニマルミュージックとノイズの中、二人のダンサーは時に動きをシンクロさせながら、触れあいそうで触れあわない絶妙なポジションで交錯する。

ホワイトノイズの中でふいに退出する平多。ダンスの解釈や全体像は石山の主導である事が多いが、パフォーマンスは平多も提案を出している。向かい合い、あと少しで手が触れそうになりながら、崩れ落ちるように倒れるパフォーマーたち。空に向かって両手を伸ばし、遭難者が助けを求めるような仕草をする平多。それにパントマイムのような演劇性を過剰に加えないための確認作業が行われた。それぞれの動きに具体的な物語をつけずに記号化することで、観客側のイマジネーションの幅を広げ、解釈を委ねる。そんな意図が感じられた。

もっともコンテンポラリーな作品を2024年の幕開けに

本作は「孤立」がテーマで、石山のソロダンスが主体となり、様々な孤立の情景が立ち現れる。しかし途中で平多が加わり、立ち去ることによって、より孤独感が高まることを感じた。一人で過ごし、自分と対話する濃密な時間は実は孤独ではない。他者が現れ、コミュニケーション不全となることで「孤立」を生む。

「今、至るところでコミュニケーションの不全や、属するコミュニティから否定されることへの過剰な怯えがまん延している」と石山は感じているそう。コミュニケーションツールは増え、そのスピードも格段に上がったが、その手法がお互いにかみ合わないと、いとも簡単に「孤立」に陥ってしまう。コンテンポラリーアートの本来の意味、「コンテンポラリー」(同時代性)の意味を切実に感じられる作品になるはずだ。開演は、新年早々の1月7日から。2024年の幕開けを「(NO W)AVE」で感覚を呼び覚ましてみたい。

最後に、石山に観客へのメッセージを聞いた。

音楽ライブとダンス公演のボーダーも思い込みに過ぎないのかもしれません。アートのカテゴリーを軽々と飛び越えてしまうものもあると思うのです。昨今『ひとりぼっち』ということで、人を蔑む物言いをする傾向があると聞いています。自分はひとりでも色々なことができると感じています。音楽を生み出せますし、動きを作り出すと言いますか、身体を操作することもできるのです。現在は、「孤立」の状態を否定的に捉える論調が多くみられますが、ひとりの可能性もまだまだありますし、否定形、肯定形、どちらかに偏り過ぎた主張は、あまり説得力がないのではないでしょうか」

(稽古場撮影・取材・文/新井鏡子)

公演概要

石山雄三/ A.P.I.『(NO W)AVE』

■公演スケジュール
2024年1月7日(日)18:00 開演
2024年1月8日(月・祝)15:00 開演+ 18:00 開演

■会場
R’ s アートコート(東京都新宿区大久保 1-9-10)

■チケット料金
前売・予約:4,000 円/当日:4,500 円(全席自由)
*全席自由/整理番号順入場/整理券は開演 30 分前から配付予定

主催:A.P.I.
コンセプト/ディレクション:石山雄三
オリジナル・サウンドトラック:CRZKNY

ライティング:畠中泰正(Lighting ETHNOS)
サウンド:遠藤幸仁(LSD Engineering)
コスチューム・デザイン:るう(ROCCA WORKS)
コスチューム製作:井上のぞみ
舞台監督:下谷高之
共同演出:坂本貫太
プロデューサー:田畑 “10” 猛(もらすとしずむ)

出演/共同振付:石山雄三、平多理恵子

特別協力:BOSS

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