ミュージカルの楽しさがここに集結!『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』上演中!
価値観の異なる者同士がぶつかり合いながら、次第にお互いを理解し愛を広めていく理想の世界を、多彩な音楽と笑いにあふれたコメディーの中で描くミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が、渋谷の東急シアター・オーブで上演中だ(12月4日まで)。
更にパワーアップした2022年版
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』は世界中で大ヒットし、日本でも『天使にラブ・ソングを…』のタイトルで好評を博した映画を、主演を務めたウーピー・ゴールドバーグ本人がプロデュースして製作されたミュージカル作品。
2009年にロンドン・パレイディアム劇場で開幕するやいなや、各紙絶賛・連日スタンディングオベーションが続く喝采を持って迎えられた。2010年にはドイツ・ハンブルグ、2011年には満を持してブロードウェイに進出。トニー賞5部門のノミネートを受けるなどの快挙を達成した。
そんな作品が日本初上陸を果たしたのは2014年の帝国劇場公演。
「一緒に踊ろうカーテンコール」との呼びかけによる、舞台と客席がひとつになるカーテンコールの楽しさも評判を高め、2016年には早くも帝劇で再演。2019年の再々演からところを東急シアター・オーブに移し、続く日本全国での公演でも熱狂の渦が巻き起こった。
今回の2022年版公演は、主演のクラブ歌手デロリス・ヴァン・カルティエに日本のウーピー・ゴールドバーグの異名を取る、初演以来不動のデロリスとして演じ続ける森公美子に、2019年からの2度目の登場となる元宝塚歌劇団宙組トップスターで、退団後もミュージカルの世界で大活躍を続けている朝夏まなとのWキャストを筆頭に、多くの続投メンバーに加え、魅力的な新キャストが集結。
更にパワーアップした舞台が展開されている。
【STORY】
1977年、フィラデルフィア。
必ず大スターになる!という思いを胸にクラブ歌手になるべく奮闘しているデロリス(森公美子/朝夏まなと Wキャスト)は、ひょんなことから殺人事件を目撃してしまい、冷酷なギャングのボスで元恋人のカーティス(大澄賢也/吉野圭吾 Wキャスト)に命を狙われるハメに陥る。重要証人であるデロリスは警察に助けを求め、そこで出会った幼馴染でいまは警察官になっていたエディ(石井一孝)の指示で、カトリックの修道院に匿って貰うことになる。
だが、規律厳しい修道院長(鳳蘭)は、デロリスが修道女たちと上手くやっていけるはずがないと猛反対。けれども、ミサに誰も寄り付かない修道院が閉鎖の危機にあると知るオハラ神父(太川陽介)のとりなしで、デロリスは修道女としてかつて経験したことのない生活をはじめ、修道女たちを巻き込みながら何かと騒動を繰り返してしまう。
そんなある日、修道院の聖歌隊の歌のレベルの低さを耳にしたデロリスは、修道院長の勧めもあって、鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かして聖歌隊の特訓に励むことになる。やがて、デロリスに触発された修道女たちは、今まで気づかなかった「自分を信じる」というシンプルで大切なことを発見し、デロリスもまた修道女たちから「他人を信頼する」ことを教わる中で、互いに絆が芽生え、聖歌隊のコーラスもみるみるうちに上達。見習い修道女のシスター・メアリー・ロバート(真彩希帆)や、好奇心旺盛で明るいシスター・メアリー・パトリック(谷口ゆうな)など、思わぬ歌の才能を発揮するメンバーも出てきて、デロリスの指導に懐疑的だった元聖歌隊指導者のシスター・メアリー・ラザールス(春風ひとみ)もデロリスを認めるに至り、聖歌隊の歌は大評判。ミサには人々が押しかけてくるようになる。
このままいけば、修道院の閉鎖も免れるかもしれない!と意気上がるなか、あまりの評判が仇となり、噂を聞きつけたギャングの手が伸びてくる。果たしてデロリスは無事にこの危機を切り抜けることが出来るのか、修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!
根底を貫く、異なる価値観を持った他者に対する理解と愛
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が、これほど観劇後の心を熱くして、長く愛され続けているのは何故だろう。もちろんそこに、原典映画が持っていたストーリー展開のアイディアの楽しさ。ミュージカル化にあたって舞台を『サタデー・ナイト・フィーバー』でジョン・トラボルタが一躍大スターになり、ディスコブームの真っただ中の70年代のフィラデルフィアに置き換え、全編を通じて多彩なディスコチューンを満載にしたこと。
その音楽をディズニー映画の数々の大ヒット作品で知られるアラン・メンケンが担当したことなど、様々な要素があるのは間違いない。言ってしまえばノリの良い音楽と、破天荒なストーリーに身を委ねていれば、もうそれだけで理屈抜きに楽しいミュージカルなのだ。
ただ、やはりこのミュージカルを最も魅力的にしているのは、異なる価値観を持った他者に対する理解と愛が、賑やかな笑いと心弾む音楽の根底に描かれていることだ。
危ない男の力を借りることも辞さずにスターを夢見ていたデロリスが、そうした上昇志向や、物欲とは無縁の「神の家」で、ぶつかりあいながら互いを理解していき、真の友を得ていく過程に胸打たれずにはいられない。
デロリスを異端の者としてなんとか追い出そうとする修道院長から、「いざとなっても匿ってくれる人が誰もいないのでしょう」と告げられたデロリスが、自分の生き方を顧みる。
また、神様に従うことに人生を捧げていたシスターたちはもちろん、自分の意志を一度も通していないことに疑問を覚え始めるシスター・メアリー・ロバートの迷いに、デロリスが結論を指し示すのではなく、選択肢を示唆して自分で決めることが大切だと促す。
そんなひとつひとつのあれこれが、人種の違いを前面に押し出さなくとも、他者への寛容と愛という、いま世の中からどんどん希薄にっているからこそ最も大切なことを、このミュージカルはひとかけらもお説教臭くないままに提示してくれるのだ。
その展開の美しさは比類がないし、クライマックスで絶体絶命のピンチに陥るデロリスに対して、あれだけデロリスを疎ましく思っていたはずの修道院長をはじめ、修道女たちがとる行動は、涙なくして観られない。しかもその涙が大笑いのなかから起きてくるのが、とびっきりの素晴らしさだ。
ミュージカルがある意味単純明快な良さを持っていた時代を知る、山田和也のシンプルな演出がその温かさをストレートに届けてくれる力になっているし、二階建ての修道院の構造や、美しいステンドグラスにはじまる松井るみの装置、高見和義の照明の見事な仕事。
ミュージカルファンの間では「ソルティ」の愛称で親しまれ、この人が指揮をするなら観たい!と思わせるほどのファンを持つ塩田明弘の、この作品に於いては間違いなく「もう一人の出演者」でもある存在感と音楽を牽引する力などのスタッフも充実。
笑って、笑って、心を熱くするパフォーマンスが楽しめる。
魅力的な続投キャスト&新キャスト
その舞台を彩るキャスト陣には、初演以来の不動のデロリス森公美子が、ますますチャーミングでパワフルなデロリスを演じていると聞いているので、後半の観劇予定が楽しみでならないが、まず現在観劇できたこれが二度目のデロリス役・朝夏まなとは、男役トップスター時代から「太陽のスター」と称された、明るい持ち味がこの役柄に打ってつけ。
二度目の登板となった今回は、身体能力の高さと同時に演技面の充実も顕著で、自分の意志を通したいといらだつデロリスが、生き方を顧みて、何が最も人生に必要なものかを理解し、変化していく様が場面、場面で伝わってくる。歌唱も高音域に力強さが増したのが大きな力になっていて、反省しっぱなしではなく何事もポジティブにとらえていくデロリスが、自然にシスターたちの中心になり全員を率いていく過程にさすがの説得力があった。
デロリスの幼馴染で警察官のエディの石井一孝は、顔立ちも演技も歌声もどこまでも濃くパワフルな人が、自信が持てず、何かとドジばかりの汗っかきエディを、持ち味とのギャップを上手く生かしながら演じていて、初演以来の不動のエディとしてますます味わいを深くしている。
冷酷なギャングのボスでデロリスの元恋人・カーティスには、持ち前のダンス力はもちろん、この役柄では冷徹さにドキっとさせられる、初演から演じ続けている大澄賢也に加え、Wキャストとして吉野圭吾が新加入。
その吉野版を観たが、定評あるダンス力はスタイルこそ違えど大澄に引けを取らないし、何より吉野の個性が、あくまでもニヒルに徹しているカーティスに、どこかでキメきれないとぼけた色を宿してもいて、ラストに向けての展開に吉野ならではの救いを残すのが、作品の温かさとよくマッチしていた。
彼の子分三人組は、続投の泉見洋平がますますぬいぐるみ的な愛らしさを、KENTAROが自分をイケてると信じているのだが、実は…の可笑しみをそれぞれ加速させているのに加え、新加入の『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役で大きな注目を集めた木内健人が、持ち前の歌唱力を生かし、言語に特徴のある役柄をよく際立たせている。
カーテンコールの初心者にも優しい振付指導も、とてもわかりやすく好感度を高めた。
修道女たちでは、シスター・メアリー・ラザールスを演じ続けている春風ひとみが、初日から体調不良で当面の間休演しているのが残念で、早い回復を期待しているが、代役を務める桜雪陽子が、春風の芝居を踏襲するのではなく、論理的な感性ではじめはデロリスと対立する独自のラザールスを演じているのが頼もしい。
また初参加のシスター・メアリー・パトリックの谷口ゆうなが、なんにでも興味を持つ役どころを明るい笑顔と歌唱力を駆使して場を盛り上げたし、見習い修道女シスター・メアリー・ロバートの真彩希帆は、素顔に極めて近く見えるメイクにも工夫があり、引っ込み思案のロバートが自我に目覚めていく過程を繊細に表現。
宝塚時代から定評ある歌唱力を、徐々に発揮していく作品のなかでの時間経過もよく考えられていた。余談だが、シスターたちがラインダンスをするシーンで、朝夏と真彩が足をあげる角度が高い位置でピタリと揃っているのが、出自を感じさせて微笑ましかった。
もう一人の初参加で、修道女たちを見守るオハラ神父の太川陽介は、ある意味ビジネスライクに、修道院の閉鎖はやむを得ないと受け入れている冷静な神父像が新鮮で、そうした彼が聖歌隊人気に前向きな行動力を示していくことが、物語のなかで非常にうまくつながって機能している。
そうした新加入メンバーがいずれもミュージカルに対する親和性が高いことも、今回の2022年版のミュージカル度をより高める嬉しい効果になっているが、なんと言っても白眉は、初演から厳格な修道院長役を演じ続ける鳳蘭。
常に神様と対話している様は、鳳がやはり長く出演を続けている『屋根の上のヴァイオリン弾き』で、鳳演じるゴールデの夫で、主人公のティヴィエの姿を彷彿とさせて、鳳蘭というスターを介したリンクが面白いし、「神が祈りを聞き届けてくれない」と嘆きに嘆いたあとの急展開から、「私は一度も神様を疑ったことなどございません!」と言い換える絶妙の可笑しさは鳳にしか出せない味。そうした修道院長が、人の愛と神の御業とが共に真実なのだと語る終幕にはいつ見ても心に深く迫るものがある。
また、二役でデロリスと歌い踊る場面でも活躍する河合篤子、福田えりをはじめ、修道女たちを演じる面々が、同じ衣裳で揃うことがほとんどのなかでも、それぞれの個性を発揮していて単純な集団にならないのも作品を支えているし、男性陣も様々に大活躍するエンターテイメントにすっぽりとくるまれたメッセージが尊い。
ミュージカルファンはもちろん、初めて観るミュージカルとしても最適な楽しさが詰まった作品で、開幕に際して、主演の森公美子と朝夏まなとからのコメントも届き、公演はますます盛り上がりを見せていくことだろう。是非多くの人に体感して欲しい舞台だ。
◆森公美子 コメント
「アラン・メンケンの素晴らしい音楽と、ウーピー・ゴールドバーグがプロデューサーとしてタックを組んだ『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』。コメディーの中にも、沢山の感動があるとても素晴らしいこの作品に、2014年の初演から8年も関われた事を幸せに思います。私の大好きな作品を皆様にも是非観て頂きたいです。最後かも知れない?森公美子デロリスを見て欲しいのです。劇場(教会)でお待ちしております。」
◆朝夏まなと コメント
「3年振りのシスターたちとの時間。人と人との見えない絆を再認識しています。コロナ禍では心のつながりを感じにくく思うこともありますが、舞台を通じてキャストやスタッフの仲間やお客様とのつながりを幸せな気持ちに包まれながら感じています。皆さんにとってもシアターオーブがパワースポットになりますように。ぜひ観にいらしてくださいね!」
【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
公演期間:2022年11月13日 (日) ~2022年12月4日 (日)
会場:東急シアターオーブ
◆出演
【デロリス・ヴァン・カルティエ】(Wキャスト): 森公美子、朝夏まなと
【エディ】: 石井一孝
【カーティス】(Wキャスト): 大澄賢也、吉野圭吾
【シスター・メアリー・ラザールス】: 春風ひとみ
【シスター・メアリー・パトリック】: 谷口ゆうな
【シスター・メアリー・ロバート】: 真彩希帆
【TJ】: 泉見洋平
【ジョーイ】: KENTARO
【パブロ】: 木内健人
【オハラ神父】: 太川陽介
【修道院長】: 鳳蘭
/ 他
◆スタッフ
音楽: アラン・メンケン/歌詞: グレン・スレイター
脚本: シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
追加脚本: ダグラス・カーター・ビーン
映画原作: タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
演出: 山田和也