【公演レポート】舞台『無人島に生きる十六人』出演:櫻井圭登、校條拳太朗

【公演レポート】舞台『無人島に生きる十六人』出演:櫻井圭登、校條拳太朗

どんな困難にも笑顔を忘れない人々がもたらす勇気と希望!
舞台『無人島に生きる十六人』の公演レポートをお届けいたします。

太平洋で座礁し、飲み水も食べ物もない無人島に流れ着いた16人の乗組員たちが、再び日本の土を踏むために、ぶつかり合いながらも希望を捨てずに生き続けた姿を描いた舞台『無人島に生きる十六人』が新宿のこくみん共済coopホール/スペース・ゼロで上演中だ。

明治時代の実話、
感動の無人島漂流譚

『無人島に生きる十六人』は、1899年、千島列島と本土とを結ぶ帆船群を、海が氷に閉ざされる期間も有効活用すべく、太平洋の新規資源開拓に乗り出した「龍睡丸」がミッドウェー近海のパールアンドハーミーズ環礁にて座礁し、流れ着いた環礁の小島で救助を待ちながら生活した実話を基に、航海専門家の須川邦彦が書いた日本の海洋冒険譚。

16名の乗員が他船による救助を信じ、文明から隔絶された孤島で希望を捨てずに生きる姿が描かれていく。今回の舞台『無人島に生きる十六人』は、この海洋冒険譚を原作に、16人の乗組員それぞれの育ってきた環境や性格、この航海に出たそもそもの思いなどを掘り下げた、ダイナミックな音楽劇になっている。

STORY

明治32年5月、帆船・龍睡丸は大嵐に遭って太平洋で座礁。脱出した乗組員たちを乗せたボートはからくも珊瑚礁の小さな島に漂着したが、そこは樹木も生えていない、飲み水も食べ物もない無人島だった。

船長の中川倉吉(中村誠治郎)は、船を補修する材料もままならず、自分たちがいる場所さえ確定できない状態で、あてもなく再び海に出るのは危険だと判断し、まずは水と火の確保に努め、見張りやぐらを作って通りかかる船に自分たちを見出してもらうことを頼みに、この島で可能な限り規律正しく生活していくことを決断する。

アメリカ人を親に持ち、英語力を生かして日本とアメリカの架け橋になりたいと「龍睡丸」の航海に参加した範多ウィリアム(校條拳太朗)は、あてのない救助を待つのではなく、少しでも体力が消耗しないうちにそもそもの航路に戻る努力をすべきだと主張するが、同じアメリカ人の血を引く最年長の乗組員・小笠原チャールズ(柳瀬大輔)ら、航海のベテランたちが船長の判断を絶対とすることにようやく従い、16人の乗組員たちは再び祖国の土を踏むために、一致団結して無人島での生活を始める。そんな中で、航海の経験が浅く、身寄りもない天涯孤独の青年・国後孝夫(櫻井圭登)は、周りの助けになるためならいつでもこの命を投げ出そうとの決意を固めるが……

REPORT

原作となった須川邦彦の海洋冒険譚は、船長の中川がこの無人島での生活を語るかたちの一人称で描かれていて、中川の目から見た乗組員たちそれぞれが描写されていく。
だが今回の舞台では、脚本・演出の大野裕之が、良い船乗りになりたい、それは仲間のためなら喜んで死ねるということだと考える国後孝夫と、思ったことを率直に口に出すが為に、何かと周りと衝突する範多ウィリアムという、全く正反対の性格を持つ二人を対称軸に置いたうえで、他の乗組員全員のバックボーンや性格、この航海に出た動機などをきめ細かく肉付けしている。これによって登場人物それぞれが生き生きと描かれ、舞台に人間の鼓動と厚みが加わった。

そんな彼らは、中川船長が「今日からは、厳格な規律のもとに、16人が一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、ほんとうに男らしく、毎日毎日を恥ずかしくなく暮らしていかなければならない」と訓示し、
「島生活は、今日から始まるのだ。
初めが一番大切だから、しっかり約束しておきたい。
一つ、島で手に入るもので、暮らして行く。
二つ、できない相談を言わないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。
さしあたって、この四つを、固く守ろう」
との誓いのもとに生活をはじめる。この四つの約束をはじめ、ポイントとなる大切な思いを、作曲の鎌田雅人が耳に残るキャッチーな音楽で表現し、音楽劇としての作品を盛り上げる。

また、冒頭の海難事故をはじめとした、様々に降りかかる苦難を、振付の良知真次が視覚的にも見応えのあるダンスや、ステージングで表わしいくことで、ほとんどの場面が無人島のなかという舞台に、メリハリがもたらされてスピード感も落ちない。特に流れ着いていた別の難破船の銅板を利用し、「パール・エンド・ハーミーズ礁、龍睡丸難破、全員十六名生存、救助を乞う。明治三十二年五月〇日」と、発見されることを信じて日々海に流す、流し文の文面が映像で映し出されることによって、時間の経過が一目瞭然になり、16人の身の上を共に案じ、劇場全体が無人島であるかのような気持ちにさせられる効果があり、全員の無事を願いながら自然に物語に引き込まれていった。

とりわけ、何度となく襲われる極限状態にあっても、誰かが必ず誰かを助けて互いを律する、人間同士の潔癖な行動がストレートに描かれる舞台からは、人に対する温かな目線と希望があふれていて、コロナ禍に揺れる2022年、人と人とが距離を取ることを求められている時代に、相手を敬う絆の美しさが感じられことに胸が熱くなる。この時代に、この実話を基にした作品を作ろうとした製作側の理念がなんとも美しいし、16人のキャストがそれぞれに個性あふれる登場人物を全力で演じている姿もまた清々しい。

国後孝夫の櫻井圭登は、幼い頃に両親を失った天涯孤独の心優しい青年を、心許ない立ち姿からきちんと表現して見せてくれる。誰かのために何かをしたいと願いながら、慣れない航海で失敗を繰り返すが、あざらしと心を通わせ、自分なりにできることを探していく国後を自然に応援したくなる、彼の成長が物語のひとつの芯になる舞台をよく支えていた。

一方、範多ウィリアムの校條拳太朗は、持ち前の英語力を生かして日本とアメリカの架け橋になりたいという自身の夢にはやるあまり、無人島の集団生活の中で周囲と衝突を繰り返す役柄を、適度な強さを持って演じることでドラマの起伏を大きく描き出した。やはり範多の成長もこの舞台の柱のひとつで、国後と真反対から進んでいく陰影が鮮やかだ。

彼ら二人にそれぞれ親友と呼ぶべき立ち位置の乗組員を配置しているのも効果的で、国後の年上の幼馴染で、失敗続きの彼をサポートする小川仁太郎の松田岳が、どんな局面でも国後の味方であり続ける人物を常に優しさを持って表出すれば、範多と同じくアメリカの血を引いている父島ケレップの田淵累生が、血気盛んに思ったことを言いながら範多と共にいるやんちゃ感を出していて、それぞれの二人組としても好対照になっている。

 水産講習所の学生で、白いセーラー姿が目立つ二人組、浅野達之助の井阪郁巳は、大阪出身の明るい青年という設定を生かした伸びやかな演技が光るし、同じく水産講習所の学生で、海洋や生態の研究をしたいと思っている秋田康成の佐伯亮は、ふるさとに残した恋人のことをいつも案じている、航海に対する気持ちが全員のなかでも異色な面がよく出ていた。

また、何事にも大きなリアクションと感情を素直に出す大声が特徴の川口雷蔵の小坂涼太郎は、厳しい局面にこうした素直さを持つ人がいてくれることは、さぞ救いになるだろうなと思わせるし、水夫長の丑五郎の息子で、経験豊富な水夫である杉田傳の前田隆太朗が、大人組と若者組の橋渡しを果たす役柄を丁寧に演じていて目を引く。

その大人組では、最年長の乗組員・小笠原チャールズの柳瀬大輔が、全ての希望が潰えたかに思える状況で、必ず「こういう時には歌うんだ!」と全員を鼓舞する姿が、非常に効果的で、劇団四季出身者である柳瀬の群を抜く歌唱力が、この舞台全体の大きな見どころになっている。

傳の父・杉田丑五郎の加藤靖久が、息子を通じて若者たちの意見に耳を傾ける、度量のある温厚な水夫長を実直に表現し、漁業長兼料理長・鈴木孝吉郎の稲葉光が、全員の命を担う食を管理する責任ある立場を、どこか飄々と演じたのもドラマが重くなり過ぎない救いになった。龍睡丸の運転士である榊原作太郎の反橋宗一郎が、中川船長が最も信頼する部下としての冷静な行動を、キビキビとした動きでよく表している。

更に、三人の水夫、高崎和平の穴沢裕介、信澤与一の吉川大貴、池本善太郎の寺島レオンは、難しいことはわからないが、とにかく海が好き、航海が好きという気持ちを全身で表現する姿が印象的で、特に穴沢のダンス力は、カンパニー全体のダンスリーダー的ポジションとして、柳瀬の歌唱力同様作品の華になっている。

そして、彼ら全員を束ねる龍睡丸の船長・中川倉吉の中村誠治郎は、難しい決断を次々に迫られる中で、全員が決して希望を捨てずに、しかもこの体験が将来の糧になるようにと腐心していく大きな人物を堂々と活写。本家本元の魅力である殺陣がもたらす身体能力をある意味で封じて、演技一本でこの役柄を支えた中村の俳優としての躍進も感じさせた。

 全体に、どんな困難に直面しても、強い心を持つだけでなく、できる限り愉快に過ごすこと、笑顔を忘れないことで希望を見出していこうとする人々が描く軌跡が、まさしくいまの時代にこそ必要な心もちであることを示してくれる力強い舞台になっていて、様々な憂いを吹き飛ばしてくれる爽快な作品を、是非多くの人に体感して欲しい。

(文・撮影/橘涼香)

舞台「無人島に生きる十六人」

2022年4月15日(金)~4月24日(日)
東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
原作:須川邦彦
脚本/演出:大野裕之
作曲:鎌田雅人
振付:良知真次
出演:櫻井圭登、校條拳太朗
   松田岳、井阪郁巳、田淵累生、小坂涼太郎、反橋宗一郎、佐伯亮、前田隆太朗、稲葉光、
   穴沢裕介、吉川大貴、寺島レオン、柳瀬大輔、加藤靖久、中村誠治郎
企画・製作:World Code
公式HP:https://worldcode.co.jp/mujinto-stage
公式Twitter:@mujinto_stage

レポートカテゴリの最新記事