地上と地下に分かれたふたつの社会 原発事故を通して、現代社会の「分断」に挑む意欲作

 演劇の世界だけでなく映画の制作者としても評価の高い來河侑希が主宰し、鈴木茉美の作演出による作品を発表し続けている劇団アレン座。実は“アレン・スワル”と読ませるというユニークさを持つ彼らは、まだ数作上演しただけでありながら、多方面から注目を集めている存在だ。

 劇団名に込められた想いについて主宰の來河は「3つの炭素が2つの二重結合でつながる不飽和化合物の総称をアレンといいますが、そこから発想して、不飽和、つまり不完全なものが集まって化学反応を起こすと、ただのカーボン=炭になるかも知れないけれどもしかするとダイヤモンドになるかも知れない。だから不完全な人間達でも集まってひとつの芸術を作るとダイヤになるかも」と語る。

 7作目となる『土の壁』は原発による放射能事故の後の世界に生きるある家族を中心とした物語だが、実は3作目の再演だという。作品について來河と鈴木。そして主人公となる小野翔平、主人公の母役の林田麻里に語ってもらった。

――― 再演とのことですが、劇団の記録を見てもこのタイトルが出てきません。

來河「ええ、タイトルが変わっていて、2019年の初演は『積チノカベ』だったんです」

鈴木「その間にいろいろ考えることもあり、今回はだいぶ書き直しました。作品の世界観はSFなのですが、自分たちが生きている世界につながり得るSFですね。物語ではまず世界が地面の上と下に分かれています。そして上には原発が沢山あるのですが、事故を起こして汚染されています。そこで暮らすのは故郷を離れたくない人達や生活困窮者です。そしてほとんどの人たちは下に行きますが、ここは汚染などが全くない世界。社会の中枢もこちらにあります。その間を分断しているのが「土の壁」なんだと思います」

―――こうした設定は3・11以降、現実味を帯びてきましたね。

來河「物語では原発の事故を「神の審判」と呼んでますが、人が制御できないものを利用して処理できないものを生み出す。それは生き延びるために決して必要では無いはずなのに、しがらみがあってそうはできない。そんなことを感じます。でもこの作品は反原発を描いたわけではありません」

鈴木「当初、來河と原発のことをやりたいと話していました。そしていろいろ調べているうちに、むしろ原発が引き起こした、その先にあるものを描きたいと思うようになって書いた作品ですね」

來河「そして今回タイトルを変えたのには大きな意味があります。もう2年続くコロナ禍の状況下で浮き彫りになっているのは「分断」。作品作りで一番大事にしたいのは、なぜ今この作品を上演しないといけないのか、という問いだと思っていますが、それを考えた結果です。上の世界で暮らす家族は、SNSで得た情報を元に自分たちでフィールドワークを始めます。そんな行動する家族の姿を通して正しい情報を自ら探ることの大切さを伝えていければとおもいます」

―――そんな母と息子を演じるお二人は、この世界観をどう捉えますか。

小野「充分起こりうる話だと感じます。現実に原発の事故は起きていますから。だからこそそれを防ぐためには正しい情報を得るべきでしょう。ところが現代は情報が溢れていて、自分たちはついついそれを鵜呑みにしてしまっている。台本を読んでそんなことを感じました」

林田「出来のいい息子に同感ですよ(笑)。物語は土の上と下ですが、現実に起こっていることですよね。まだ稽古が始まったばかりなので、これから役を作り込んでいく中でわかってくることもあるでしょう。それを家族の構造の中から客席に伝えられれば良いなと思います」

―――プロデューサーの來河さんがお二人を起用したポイント。そして演出の鈴木さんはどんな感じで俳優に向かうのかを教えてください。

來河「林田さんは、出演作品を拝見して是非にと思って声をかけました。僕がプロデューサーを務める作品にも参加して貰っています。小野さんはやはり映画関係でお付き合いのある事務所さんから候補を出していただき、それでキャスティングしました」

鈴木「演出家がどう役者さんに向かうかは様々だと思いますが、私は否定することはしないタイプで、むしろ皆さんがどんなアプローチをしてくるのかを知りたいと思っています。みなさん色々な現場を経ていらっしゃるので。それを通してベストを見つけていこうといつも思ってます」

來河「劇団運営の方法論として同じメンバーで積み重ねていく、というのがありますが、僕のキャスティングはそれをしないんです。そこが面白さになれば。様々な年代、タイプ、そしてフィールドの役者さんを全部受け止めて、丸ごと鈴木に投げている感じですね(笑)そうやってきた5年間ですし、鈴木もそれに慣れていったのだと思います。昔は自分の世界観にはめていくタイプでしたが、それが変わってきました」

―――最後に抱負をお願いします。

小野「僕、実はこれが初舞台なんです。もともとはモデル活動が主でした。だから嬉しいけれど実力が伴っていないんです。稽古を通して創り上げるとしても、顔合わせくらいまでは本当に怖くてそれこそ眠れませんでした。お客さんの前でやることも初めて。映像のようにカメラに向かってではない。怖かったけれど、周りの皆さんの様子から学んで、恐怖とワクワクが同じくらいになりました」

林田「今この作品をやる意味を考え、取り組めれば良いなと思います。これまでも何作か原発に関わる作品に関わったことがありますが、その度に意味を考えていました。今回もそうやって濃いものにしていければと思います。あとアレン座さんの舞台って動画や衣装などのビジュアル要素も凄いんです。そこに立てるのは光栄なので、楽しみにしています」

鈴木「凄く嬉しいキャストが揃ってくれたと思っています。原発云々ではなく、人の話を伝えたい。それに一緒してくれる役者さんが揃ったと思います。いい作品にできると思っていますので。是非お運びください」

來河「今回はやはり家族の話になっています。初演とは求めているテーマが違ってきています。お客さんが熱狂するような舞台を創りたいですね」

(取材・文:渡部晋也)

プロフィール

鈴木茉美(すずき・まみ)
静岡県出身。脚本家、演出家として劇団アレン座の作品に関わる。劇団アレン座の全作品の脚本・演出を手掛ける。

來河侑希(きたがわ・ゆうき)
福岡県出身。劇団アレン座を主宰し、プロデューサー、俳優として作品の制作に関わる一方で、映画制作にも活動の幅を拡げ、2017年10月に出演・共同プロデューサーを務める映画『僕の帰る場所』が、東京国際映画祭(アジアの未来部門)にて、作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞の2冠を達成し、さらに21カ国33以上の国際映画祭に選出された。

小野翔平(おの・しょうへい)
埼玉県出身。日本と中国のハーフで中国・北京で育つ。モデルとしてCFやMVに出演して活動を展開。映画やテレビドラマなど映像作品に参加。舞台への出演はこの公演が初めてとなる。

林田麻里(はやしだ・まり)
福岡県出身。九州大谷短期大学表現学科を経て、舞台・テレビ・映画など様々なフィールドで活躍する。2013年には第48回紀伊國屋演劇賞において個人賞を受賞した。

公演情報

劇団アレン座 第7回本公演『 土の壁』

日:2022年3月9日(水)~13日(日)
場:すみだパークシアター倉
料:プレミアム前方シート 6,500円 
  一般指定席4,500円(全席指定・税込)
HP:http://allen-co.com/tsuchinokabe/
問:劇団アレン座 mail:info@allen-co.com

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