モデルとしてスタートし、その後に映画、テレビドラマ、そして舞台でと着実にキャリアを積み重ねている櫻井孝之が挑む、初めての作・演出作品。インターネット上の都市伝説として話題となり続けている「きさらぎ駅」をモチーフにして、櫻井自身が書き下ろした物語を、朗読劇というスタイルで上演するという。本来の寿命を全うできなかった魂が集うこの駅で“生”と“死”を巡る物語が綴られるという。
――――これまで俳優として活躍されてきた櫻井さんにとって初の脚本、そして演出作品ということですが、以前から作・演出への興味をお持ちでしたか。
「脚本や演出、映画の監督には興味を持っていて、いつかはやってみたいことでしたが、ここのところのコロナ禍の中でちょっとしたきっかけができまして、お世話になっている事務所の協力もありチャンスをもらった感じです。それ以前の自粛期間には東京都が募集した『アートにエールを』の中で、仲間達と制作した個人名義の映像作品を出したりしてました」
――――演出などの作業について、なにか下地があったんでしょうか。
「ほぼ無いです。だからまだどこまでできるかが不安で仕方が無いですね」
――――演出家や映画監督で強く影響を受けた方はいますか。
「映画の世界から、それはもう沢山の監督さんから刺激を貰っています。役者を始めた頃、年間400本の邦画を見ろと言われまして、悔しくて結局500本観ました(笑)。そのせいで映画に魅せられたんです。好きな監督を挙げるなら篠原哲雄監督。僕は役者の前にモデルをしていましたが、篠原さんのワークショップを受けて俳優の道が開けたんです」
――――さて、物語は寿命を全うできなかった魂が集まる駅を舞台に、とあります。
「そうですね。魂は生まれ変わり死に変わるという輪廻転生のサイクルがある中で、本来もっと生きるはずだった方が予定外の時期に亡くなるというのはそのサイクルが崩れるということ。それを崩さないためにあるのが“きさらぎ”で、ここではそこに集った人の物語になります。また、ネット上で数年前に話題になった都市伝説“きさらぎ駅”も好きで、モチーフに使わせてもらっています」
――――朗読劇ということですが、通常舞台での上演を踏まえて、前段階としての朗読劇ですか?
「そういったことは無いです。昔から何か作りたいとは思っていましたが、映画は莫大な予算がかかるし。舞台にしても結構大がかりな話になります。そこへ今回コロナ禍という状況があったので、感染対策もし易い朗読劇の形をとることにしました。今後本格的な舞台や映画に展開できれば良いなとは思っていますが、まずは朗読劇で上演します」
――――そして櫻井さんは出演されないんですね
「ええ、今回は作演出に集中します。」
――――では、櫻井さんがこの作品を通して訴えたい事を伺いたいのですが。
「理想は観て頂いたお客さんが、帰り路で自分の大切な人に連絡したいと思ってもらえたら。そんなことを想います。そして皆さんが少しでも前向きな暖かい気持ちになる作品にしたいです。実は僕は上京してきた翌年に父を病気で失いました。その時は故郷に帰るべきかとても悩みましたが東京で仕事を続けています。この10年来僕の周りにはいつも生と死がつきまとっていて、自分自身がそういったことを考えさせられるタイミングが多いんですね。たまに父と話してみたいと思うことも有ります」
――――櫻井さんの実体験も混ぜ込んであるんですね。
「ハートフル・ストーリーとは謳っていますが、役者の皆さんには結構ストレスがかかる内容ですし、台詞もそういった部分が出てくると思います。だから皆さんには生と死をしっかり考えてもらう事になるでしょうし、きっと大変なんじゃないかなとも思っています」
――――では最後に観客へのメッセージをお願いします。
「感染症の蔓延がきっかけとなって、生と死が身近になったこの数年に、あえてそこを題材にして創ってみました。観て暖かい気持ちになってもらえればと思って作りました。初の作・演出。スタッフや役者の皆さんの力を借りてお送りします」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
櫻井孝之(さくらい・たかゆき)
北海道出身。札幌でモデルとして活動した後に上京。俳優としてテレビや映画、そして舞台を中心に活躍している。最近では『ガラスの仮面 愛のメソッド2019』(2019年)に日向役として出演している。
公演情報
OMNIA STAGE
朗読劇『改札を抜けて』
日:2022年1月27日(木)~30(日)
場:中目黒 キンケロ・シアター
料:SS席 7,800円 S席6,500円 A席4,800円(全席指定・税込)
HP:https://twitter.com/omnia_manager
問:株式会社オムニア tel.03-6452-6902