歌人・斎藤茂吉とその家族が「老い」を見つめる2連作 3人の女性キャストを迎え、華やかさが加わる作品に

 歌人であり、精神科医としても活躍した斎藤茂吉の晩年を描いた劇団チョコレートケーキの2連作。6月に上演した『白き山』に続く『つきかげ』が上演される。ここ数年は、読売演劇大賞を受賞した『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』など、公権力と個人の摩擦を描く社会的な印象が強かったが、この2作では斎藤茂吉という人物を軸に家族の物語を描いている。最近は外部作品での活動も目立つようになってきた脚本家の古川健と、演出の日澤雄介に話を聞く。


―――前作『白き山』からの連作になりますね。

古川「前作の『白き山』が“老い”の入口の物語ですが、この『つきかげ』は『白き山』の5年後、更に茂吉の老いが顕著になった時期を舞台としています。つまり、人間は自分自身や家族の“老い”とどう向き合うのか、という物語です。それは個人的な物語であると共に、人間は社会的な生き物ですから、社会との関わりの中でどう老いていくかという物語でもあります。
 終幕に向けて人はどうあるのか。それは本人にとっては深刻な問題ですが、一方ちょっと滑稽に感じる部分があったりすると思うんです。そのおかしみを自然に書ければいいなと思います」

―――2作品連作ならでは、という部分はありますか。

日澤「すでに『白き山」で5人の俳優と作った雰囲気がありますから、その人物や関係性などを良い意味でそのままシフトさせられればと思います。前作の空気を残しつつ、“老い”が人を変えてしまう実感を上手く出したいですね。
 そして、新キャストとして茂吉の妻である輝子さん、茂吉の娘として百子さん・昌子さんが加わります。新しいキャストが3人増えることによって、作品の雰囲気も変わるのではないかと。前作は息子達の目線だけだったのが、新たな目線が加わる。そこが面白そうですね』

―――登場する人物だれもが同じ時間軸を生きているはずですが、“老い”を迎えた人間とその息子・娘達の時間は速度が違うような気がします。

日澤「(茂吉は)冒頭から脳出血を煩い、弱った状態ですしね。息子達の時間軸と茂吉・輝子の時間軸の違い。また未来に向かっていく時間の進み方と、60歳を過ぎて終わりに向かう時間の進め方は違うはずで、そこの差を(古川は)書いてくるでしょうね」

―――この作品は今までの作風と違って、ある意味ホームドラマ的な印象がありますが。

古川「その捉え方で良いと思います。『白き山』では戦争と芸術という視点で作劇しましたが、この『つきかげ』はかなりホームドラマ的になるなとは元々思っていました。自分自身、常に新しいことにチャレンジしたいと思っているので、この作品はチャレンジだと思っています。
 幸いなことに(斎藤家は)資料が多い家族で、特に(息子達である)茂太さんと北杜夫さんは家族のことを書き残してくれています。そのお陰で自分の中でもイメージは湧きやすかったです」

―――演出もそうですが、舞台装置もこれまでの何かを象徴するようなセットでは無くなるんじゃないですか。

日澤「より具体的なセットになってくるでしょう。今まではあまりやってこなかった方向ですが、これはこれで楽しいと思ってます。具体的には美術家さんとの相談次第でもありますが」

―――劇場も下北沢の駅前劇場で、小さな空間ですね。

日澤「やれることは限られますね、間口が5間くらいかな。でもウチは(駅前劇場が)結構多いんです。最初の『治天ノ君』もそうでしたし。東京芸術劇場などでやれるようになった今でも、事ある毎に使いたくなる劇場です。お客さんとの距離感が絶妙で立ち戻りたくなります。
 今回は2作品の連作と共に駅前劇場での連続公演という企画になりました。今のウチにとっては200人以上の劇場でやることと、100人くらいの劇場でやること。2つの軸があると思っています」

―――そんな近い距離で音無さんを観られるのは凄いことかと(笑)

日澤「そういう面白さもありますね。あの距離で音無さんを観られるのはなんか贅沢じゃないですか(笑)」

―――最後に皆さんからのメッセージを頂きます。

古川「物語というのは人間の営みの面白さや悲しさ、苦々しさから生まれると思います。特に家族というのは色々なライフステージにいる人間が集まった集団ですから、その各々のライフステージの齟齬そのものがドラマになるように思います。
 その家族の中で起こるちょっとした事柄が、お客様の心に引っかかってくれたら嬉しいですね」

日澤「連作となっておりますが、1作品完結型ですので『つきかげ』だけでもお楽しみいただける作品となっております。その上で、『つきかげ』を見て頂く方には、家族の温かみだけではなく、家族特有の息づかいを感じて頂ければと思います。
 『白き山』からご覧頂いている方には人間関係の変化を感じていただきたいです。茂吉自身や新たなキャストが入った家族の人間関係をご覧ください」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

日澤雄介(ひさわ・ゆうすけ)
東京都出身。劇団チョコレートケーキ主宰、演出家・俳優。駒澤大学演劇研究部を経て、2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げ。劇団作品に出演する傍ら、2010年の第17回公演『サウイフモノニ…』から演出も手がけるようになる。劇団作品のほか、ミュージカル『蜘蛛女のキス』、舞台『M.バタフライ』、『アルキメデスの大戦』、『ハイ・ライフ』など、外部での演出も手がけている。

古川 健(ふるかわ・たけし)
東京都出身。劇作家。駒澤大学演劇研究部を経て、劇団チョコレートケーキに参加。俳優として劇団作品に出演する傍ら、第16回公演『a day』からは脚本も手がけるようになり、以降全ての劇団作品を手がけている。さらに、『失敗の研究―ノモンハン1939』など、外部への作品書き下ろしも多数。

公演情報

劇団チョコレートケーキ 新作公演『つきかげ』

日:2024年11月7日(木)~17日(日)
場:下北沢 駅前劇場
料:前売5,000円 当日5,500円
  U25[25歳以下]3,800円 ※要証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.geki-choco.com
問:劇団チョコレートケーキ
  mail:info@geki-choco.com

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