演出にグレッグ・デールを迎えたオンプラ版『カルメン』 オペラを超えたエンターテインメントとして、名作が蘇る!

オンプラゾリステンはビールと音楽が楽しめる店として32年間愛されてきた銀座の“音楽ビヤプラザライオン”に出演していた声楽家や演奏家によるオペラ団体。普段は藤原歌劇団や二期会、フリーで活躍する腕利きが集まる彼らによる3回目の公演として『カルメン』に挑む。更に今回は俳優、演出家、そして昨今は映画監督としても活躍するグレッグ・デールを演出に迎えたオンプラゾリステン、通称“オンプラ”版の『カルメン』になるという。主役であるカルメン役の栗田真帆と杣友惠子。ミカエラ役であり団体の取り纏めでもある菊地美奈。そして演出のグレッグ・デールに話を聞く。


―――――普段はテレビや映画などで俳優として活躍されて、さらに演出家としても沢山の舞台を手がけていらっしゃるグレッグさん。オンプラゾリステン(以下、オンプラ)の皆さんとの出逢いと、今回の『カルメン』への参加について伺います。

グレッグ「菊地さんと出逢ったのは、兵庫県で指揮者の佐渡裕さんがプロデュースされていた公演でご一緒したときでした。僕はオペラ歌手ではありませんが、そこに出演していたんです。それからのお付き合いですね。ニューヨークで育ちましたが、父親がオペラのシーズンチケットを買っていたので、一緒にオペラに親しんできました。大人になってからは演出家として多くの日本人俳優と付き合ってきましたので、今回オペラに演劇のメソッドを採り入れたら面白いことになるんじゃないかと思っています」

菊地「佐渡さんの舞台ではオペラ歌手と俳優としての出会いで、結構長いことご一緒していました。その時の印象が強かったので今回オンプラ版のカルメンをやることになった時に是非演出にと思いついたんです。『カルメン』は今はない音楽ビヤプラザライオンでハイライトをやっていました。オンプラとしてはここまでオペレッタを2本公演しましたが、今回はスタンダードオペラの『カルメン』に少々手を加えてオンプラ風に公演します。グレッグさんの演出により更に芝居の部分が強くなるでしょう」

―――――改めて演出家としてグレッグさんが入ることで、期待されることはありますか。

菊地「公演に向けてグレッグさんのワークショップを重ね、役者として活躍されているグレッグさんに、ゼロから演技を教えていただいています。私達だけだとどうしても歌に集中してしまうので、演技を意識することで質は変わってくると思います。どんな仕上がりになるかが楽しみです」

杣友「私もワークショップを受けたのですが、もー目から鱗といった感じで(笑)。凄く楽しめましたし新鮮な驚きがありました。やはり歌を優先して、今までは演技を音楽で考えてきたのですが、演技力を鍛えるメソッドのおかげでオペラへの新たなアプローチに出会いました。デールさんの指導を採り入れた、新しいカルメンを見せることができるでしょうね」

栗田「自分の心の奥底から湧き上がるものを大切にするのはわかっていますが、グレッグさんはそれに振り回されず“技”として使いなさいとおっしゃるのが新鮮でした。演出家さんは殻を破ろうとする方も多い中で、ちょっと違ったアプローチなのかなと。実は周りから『カルメン』を何度もしている様にみられがちですが、日本語版で一度やったきりでフランス語版では経験がないんです」

―――――今回の『カルメン』はどちらですか?

菊地「日本語とフランス語、両方で歌います。お客様は字幕を読まずにお楽しみいただけるようにという試みなんです」

栗田「ええ、そして日仏折衷版は初めてです。また、『カルメン』は登場人物それぞれが輝いている作品ですが、さらにオンプラ版ではそれぞれ自分を隠すことなく精一杯表現するのが魅力でしょう。オペラにも歌舞伎の様に“型”がありますが、グレッグさんの演出によってそこに収まりきらないステージになるでしょう」

グレッグ「例えばフィギュアスケート。今の選手は4回転とか凄い技術を持っていますが、表現、芸術的部分が付かないとそれも活かしきれませんよね。オペラも同じです。音楽、歌だけでなく、演技力が加わるともっとよくなるでしょう」

―――――先ほど子供の頃からオペラに親しんできたとご紹介がありました。オペラも演劇も両方のエッセンスが交わるわけですね。

グレッグ「僕は5歳まではモナコで育って、その後にニューヨークでしたが、最初のオペラはワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』で、寝ちゃいましたよ(笑)。父親のお陰でパヴァロッティとカバリエを目の前で聴いたこともあります。凄いインパクトでしたね。今はミュージカルの方が好みですが、全てはアーティストとして自分のアートに影響する大切なものですね。今は日本が拠点ですが、自分は地球人だと思って活動しています」

杣友「凄い経歴ですね。METのシーズン席なんてあったら、毎日通うでしょうね。私は徳島の田舎育ちですから羨ましい(笑)」

菊地「私は東京生まれで、祖父母の関係で映画の招待券が毎月回ってくるので、興味なくても見ていました」

―――――様々なキャリアで活躍される皆さんによる『カルメン』。公演への抱負を聞かせてください。

グレッグ「世界でも番知られているオペラ『カルメン』を、オンプラの皆さんならではの、ちょっと違うものに仕上げます。演技の部分も加わりますから、どうなっていくか僕も楽しみです」

杣友「グレッグさんや今回の素晴らしいキャストとご一緒できるのはとても嬉しいことですが、それに加えて音楽ビヤプラザライオンで歌っていた時の良さをたくさん織りまぜた舞台になると思います。オペラの様なオペレッタの様な、色々な曲を交えた、音楽ビヤプラザライオン的、芝居的、オペラ的と三位一体の舞台になるでしょう」

栗田「今、多様性が叫ばれ、情報が溢れている社会ですが、だからこそ見失うことも多いと思います。カルメンという女性は他に染まることが出来ないからこそ自分の生き方を確立する。そんなキャラクターが魅力なのだと思います。周りに流されやすい自分としては、稽古を通して自己を確立していくことに取り組んでいきたいですし、お客さまにも観た後に何か生き方のようなものを確立してもらえればいいですね」

菊地「皆さんが言うとおり、有名な『カルメン』にオンプラ版ならではの色々な仕掛を隠してあります。ドラマがしっかりと、より濃厚に伝わる様にみんなでディスカッションをしつつ創り上げていこうと思います」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

グレッグ・デール
父親の仕事の関係で5歳までモナコで育ち、その後ニューヨークで育つ。プリンストン大学にて文学と演劇を専攻しニューヨークの劇場やテレビCMなど10年間を俳優として、さらに演出家としても活躍する。その後日本に居を移し、数多くの舞台、テレビドラマ、映画に出演。声優、ナレーターとしても活躍する。また、演出家としても多くの舞台を手がけ、2023年に制作された監督作品『Rules of Living(邦題:ハジマメシテ!)』が、第30回セドナ国際映画祭の ディレクターズチョイス:最優秀長編コメディ賞を受賞した。

栗田真帆(くりた・まほ)
メゾ・ソプラノ。東京都出身。東京藝術大学声楽科卒業。聖徳大学大学院音楽文化研究科博士前期課程修了。同大学院研究生修了。声楽を高橋大海・島崎智子・田口孝子・永井和子・外山浩爾の各氏に師事。これまでに『ヘンゼルとグレーテル』や『ラ・チェネレントラ(シンデレラ)』のタイトルロール(題名役)などでオペラに出演。またヘンデル『メサイア』やベートーベン『第九』などのソリストを務める。聖徳大学音楽学部講師。葛飾区民合唱団ボイストレーナー。日本声楽アカデミー会員

杣友惠子(そまとも・けいこ)
徳島県出身。東京学芸大学で教職を志すが、一念発起して声楽家の道を選び東京藝大声楽家に入学。大学院を修了。第20回日本声楽コンクール入選。二期会本公演『ウリッセの帰還』、『魔笛』、『フィガロの結婚』、『リゴレット』、『イルトロヴァトーレ』に出演。神奈川県民ホール・びわ湖ホール共催オペラ、NPO法人ミラマーレオペラ、文化庁巡回公演に多数出演。二期会会員。

菊地美奈(きくち・みな)
東京都出身。東京芸術大学卒業、同大学院修了。新国立劇場『魔笛』パミーナ、同『ジークフリート』森の小鳥、小澤征爾指揮『ファウストの劫罰』天の声、二期会・ハンブルク州立歌劇場共催・P.コンヴィチュニー演出『皇帝ティトの慈悲』セルヴィーリア、二期会・宮本亜門演出『フィガロの結婚』スザンナ等、オペラに多数出演。音楽ビヤプラザで様々な公演のプロデュースしてきたほか、近年は演劇に目覚め文学座プラチナクラス8期、11期修了。俳優、プロデューサー、作詞、訳詞、脚本など多彩な活動を行っている。二期会会員。

公演情報

オペラ カルメン オンプラ版

日:2024年6月28日(金)14:00/18:30開演(13:30/18:00開場)
場:渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
料:一般7,000円 ※他、恩送りプレミアム席あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://ameblo.jp/onpla-lion
問:一般社団法人オンプラゾリステン mail:mplazaginza@gmail.com

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