井上ひさし生誕90年となる今春、彼が約6年をかけて取り組んだライフワーク“東京裁判三部作”の第二部、『夢の泪』をこまつ座で初上演する。キャストのラサール石井と秋山菜津子に、出演に向けての想いを聞いた。
ラサール「僕は学生の頃から、井上先生に憧れていました。この三部作ができるまでをまとめた書籍『初日への手紙~東京裁判のできるまで』を過去に拝読し、井上先生が命を削って書かれたのを知っているので、いっそう身が引き締まります。
また、これまでご縁のなかった栗山民也さんの演出が受けられるのも嬉しいです。実はアプローチするために、栗山さんの稽古場にお邪魔したこともあるんですが、お忙しくて全然こちらを見てもらえず(笑)。やっと念願叶いました」
秋山「お声がけをいただいた時は『来た!』と思いました。栗山さん、こまつ座さんへの感謝や嬉しい気持ちと同時に、背筋が伸びる想いです。ピシッとしなければ、井上先生の作品には取り掛かれませんから」
昭和21年の新橋駅近くにある法律事務所を舞台に、ラサールが弁護士の伊藤菊治、秋山が妻の秋子役を演じる。物語は、秋子がとあるA級戦犯の補佐弁護人になるよう依頼を受けたことから、大きく動き出す。
ラサール「菊治は、ちょっと女にだらしがない男。自分の若い頃を思い出したりもして、やっと役に活かせるかなと(笑)。己の欲を隠さないところに、両津勘吉っぽさを感じたりもします。東京裁判というかたい内容をどれだけ柔らかくお客様に届けるか、それが僕に託された役割だと思っています。菊治は大先輩の角野卓造さん、辻萬長さんがおやりになった役ということで、自分もそんな歳になったのだなと感慨深いです」
秋山「菊治は、ラサールさんがおやりになることでとっても面白くなりそうですよね! 私、台本にある『菊治、遠くに行ってしまう』というト書きを読むたびに、ラサールさんが遠くに行く姿が浮かんできて(笑)。そのときのラサールさんの動きや表情を、今から想像して笑ってしまっています」
ラサール「あれね、きっと難しいですよ。『遠くに行く』っていうのが舞台上でどういう表現になるのか。井上先生も、もうちょっと細かく書き込んでくださればよかったのに(笑)」
秋山「ふふふ(笑)」
ラサール「そんな秋山さんは、僕以上にかたい台詞をたくさん言わないといけないから大変ですね」
秋山「栗山さんは真面目なところはしっかりやり、笑いの部分はとても面白く見せるでしょうから、稽古でその塩梅を探っていきたいです。栗山さんの演出はコンパクトで無駄がなく、ダメ出しの量と質が高くてとても勉強になります。一回通し稽古をすると20個ぐらいダメ出しされるのですが、次にダメ出しされた部分が直っていないと、『あ、そこ言ったよ!』とすかさず指摘される。ダメ出しを、全部覚えておられるんですよね。かといって堅苦しいわけでもなく、好きにやらせていただけるところもあり、厳しくも楽しい稽古場です」
ラサール「周りの人から栗山さんの話を聞いていると、『俺、大丈夫かな』と不安になっています。というのも僕はちょっとずるいところがあって、演出の方から厳しく言われないように、“言わないで光線”を出したりしながら生きてきたんです」
秋山「“言わないで光線”ですか(笑)。じゃあ、褒められるのは?」
ラサール「大好きです! でも今回の稽古は、真正面から頑張ります」
『夢の泪』では、挿入される歌やダンスも見どころの1つだ。
ラサール「この作品は、歌がたくさん入ってきますよね」
秋山「私は台詞がいつの間にか歌詞になっているような、歌と台詞の境目がない楽曲が好きなので楽しみです。ピアノの生演奏に合わせてというのは、贅沢ですよね!」
ラサール「歌詞が、作品全体に影響を及ぼすところもありますしね。僕は、歌は全然上手くないけれど、ミュージカル好きなので、今回の歌やダンスはどんな風なのかなと楽しみにしています」
最後に公演に向けて、各々の目標を聞いた。
ラサール「まずはみんなの足を引っ張らないように! 『この人、前からこの芝居をやっていたんじゃないか』と思われるぐらいのお芝居をしたいですね。稽古が始まる前に、一度、角野さんと飲もうかと思っているんです(笑)。初演の時のお話など、色々お聞きしたいなと思って」
秋山「じゃあ、私も三田和代さんと飲むとか……(笑)。東京裁判が軸になっていますが、やはりお客様には楽しんでもらえたらなと思っています。歴史上のことを知ってもらいつつ、井上先生が込めた想いが伝わるように頑張らないと!」
(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美 秋山菜津子担当ヘアメイク:板垣美和)
プロフィール
ラサール石井(らさーる・いしい)
渡辺正行・小宮孝泰と『コント赤信号』を結成し、1980年に「花王名人劇場」でデビュー。以降、テレビのバラエティ番組をはじめ、様々な映像作品で活躍する一方、舞台の演出や脚本も手掛ける。こまつ座では2014年『てんぷくトリオのコント』で脚本・監修、2017年『円生と志ん生』で初出演、2018年『たいこどんどん』で演出を担当した。
秋山菜津子(あきやま・なつこ)
高校時代から演劇活動を始め、高校の先輩のケラリーノ・サンドロヴィッチに誘われ、劇団「健康」の活動に参加。その後、松尾スズキ作・演出『キレイ』で注目を集める。以降、日本を代表する演出家の多くの作品で活躍。井上作品は2011年『キネマの天地』、2012年『藪原検校』、2014年・2017年『きらめく星座』に出演。
公演情報
こまつ座 第149回公演『夢の泪』
日:2024年4月6日(土)~29日(月・祝) ※他、地方公演あり
場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
料:一般8,800円
夜チケット[全夜公演]7,000円
U-30[30歳以下]6,600円
高校生以下2,000円 ※こまつ座のみ取扱
(全席指定・税込)
HP:http://www.komatsuza.co.jp/
問:こまつ座 tel.03-3862-5941