いろいろな制限が緩和された中でようやく行える公演をぜひ楽しんでほしい

 ケビン・コスナー&ホイットニー・ヒューストン主演の大ヒット映画を舞台化した、ミュージカル『ボディガード』。2020年に日本キャスト版が制作され、コロナ禍での数少ない初演を経て2022年に再演。そして今年、満を持して3度目の上演が実現する。
 初演からボディガードのフランク役を務める大谷亮平は、さらに演技をブラッシュアップした上で、自分自身も楽しみたいと力強く話す。「I Will Always Love You」をはじめとする名曲の数々を生で体感できるステージが、ようやく本来の形で私たちの前に現れる。

舞台で演じる喜びを知った作品

―――大谷さんにとって初めての舞台経験となったミュージカル『ボディガード』が、3度目の上演を迎えます。今、どんなお気持ちですか。

 「ずっとコロナの影響で観に来られなくて、今回の公演を楽しみにしていたお客さんも多いと思うんです。そういう方々を裏切らないよう、作品性を上げたいというのが今の気持ちですね。観終わった後に満足していただけるのはもちろん、すごく晴れやかな気持ちになるというか、ちょっと大きく言うと、これからの生活がより明るくなるような……そういう気分になってもらいたい。そのくらいの思いがあります。
 そして僕個人としては、フランクという役をもっとカッコ良く仕上げたいという大きな目標があります。再演での自分の演技を見返してみて、細部をより良くしたいと感じたところが結構あるんです」

―――映像を見て研究なさったのですか。

 「稽古や本番の映像が資料で残っているのですが、チェックする程度であまり見ていなかったんです。映像で見るということはお客さんの目線になるわけですが、それに囚われるのではなく、舞台上での感情や気持ちを優先したかったから。
 でも、今回セリフを入れ直すのは映像を見た方が早いなと思って(笑)、最初から最後まで通して見たんです。そこで自分の演技を集中して見たときに、ちょっと疑問符がつくような動きや仕草があって。それが稽古でどうなっていくかはわかりませんが、今回は自分の達成感、満足感だけでなく、魅せ方にもさらに気をつけて作っていきたいと思っています。当たり前のことですけどね」

―――初演の『ボディガード』に参加する前は、舞台に立つことに対してどんなイメージを持っていらっしゃいましたか。

 「どちらかというとネガティブなイメージ……危険だなって感じていました(笑)。ドラマなどの現場ではNGを出すことも普通にありますが、舞台ではミスが許されない。もちろん、それでもミスはあるんでしょうけど、“こうやってみんなでカバーしました”みたいな笑い話に変えていたりするのを聞くと、舞台に立ったことがない自分からすると“ヤバいことやってるな”って、素人みたいな感覚で思っていたんです。
 でも何公演かやっているうちに少しずつ不安が減ってきて、逆にそれを上回るくらいの楽しさを感じるようになりました。稽古期間を含めて、映像の仕事とは違う喜びを味わえる。“あ、こういうことか”って思いましたね」

―――『ボディガード』のフランクといえばケビン・コスナーのイメージが強い中、大谷さんは初演時のインタビューで、フランクという人物をゼロから作り上げたとおっしゃっていました。

 「普段は、ドラマなどで“次はこの役をやります”というのを最初に聞いたとき、モデルっぽい人が思い浮かぶことが多いんです。自分とは違う別のイメージがポーンと出てきて、そこからヒントをもらう。
 ただ、『ボディガード』の場合は、映画版のキャストを意識する・しないを考える間もないくらい、別物だなって思ったんです。こういう言い方が適切かどうかわかりませんが、あの作品の題名とある程度の内容をお借りした別物っていう感覚。
 それで、フランクの役をなんとなく思い描いたときに浮かんできたのが、自分自身の姿だったんです。こういう外見で、こういう声の人間がスーツを着て物語に入っていくというイメージ。それをベースに、フランクという役に近づけていきました」

撮影:岸 隆子

相手が変わると自分の気持ちも自然に変わる

―――先ほど、今回はフランク役をもっとカッコ良く仕上げたいとおっしゃいましたが、もう少し詳しく聞かせていただけますか。

 「前回の演技が“完璧、OK”となっていたら、今回もそういう気持ちで、あのときを思い出して取り組むことになるんでしょうけど、ごくシンプルに、自分で自分の演技を見返して目につくところが出てきたということです。誰かとのシーンをどうしようっていうのは稽古の中でやっていくことですが、自分個人の動きは1人で見返したり考えたりして改善できるし、それがあっての周りとの芝居ですからね。
 他のキャストの皆さんも個人個人でそういう作業をされると思うし、僕は僕で、前回から2年経って、意識するしないに関係なく変わった部分もあると思うので、“前回と同じように”というような気持ちはありません」

―――では、劇中でお気に入りのシーンと、難しいなと感じるシーンを教えてください。

 「お気に入りは、ほぼ全部です(笑)。あえて絞るとしたら、初めてレイチェルとバーに行くシーンですね。最初からずっと緊張感のようなものを持っていたフランクが、あそこで気持ちが緩んでしまう。あれは最大のミスなんですけど、唯一ちょっとハジけられるシーンではあるので……あっ、でも自分の歌が入ってくるから気に入ってはないな(笑)。
 難しいのは、後半で、もうこの関係を続けるのはやめようと打ち明けるシーンかな。本当はレイチェルのことが好きなのに、そのことで危険を招いてしまい、気持ちとは逆のことを言わなきゃいけない。その表現は難しいですね。
 再演のときは結構声を荒げたりしたんですけど、レイチェルも大人の女性なので、カップルの喧嘩みたいな軽い感じにはしたくない。立場のある人間同士が、どうしても関係を断たなきゃいけない、だけど感情は強く持って、声もお互い強めに出して……というところで前回も悩んだし、今回もまた悩むんだろうなと思います」

―――レイチェル役は新妻聖子さん(初演・再演に参加)とMay J.さん(再演に参加)がダブルキャストで演じます。お二人とのコンビネーションはいかがでしょうか。

 「僕としては、新妻さんだからこうしようとか、May J.さんだからこっちのパターンでいこう、みたいなことは全く考えません。今日はどちらが出てくるのか、本番直前まで知らされなくてもいいくらいです。
 フランクはレイチェルを守るのが仕事なので、この人を守りたい、守らなきゃいけないという気持ちをずっと持ち続けているわけですが、やはりお二人はタイプが違うので、雰囲気や演技によって自然とこちらの気持ちも変わってくる。それは、演じ分けるというのとは違うんです。もちろん、お二人の側に何か変化があって、それを僕がキャッチできることがあれば、それは2年を経て再演する楽しみの1つだと思います」

撮影:岸 隆子

―――大阪のお客さんにとっては、レイチェルを支えるマネージャーのビル役を吉本新喜劇の内場勝則さんが初演から演じているのも大きな見どころです。共演者としての内場さんはどんな方でしょうか。

 「現場では、すごく静かな方ですね。存在を消すかのような佇まいです。もともとあまり重厚感のある見え方の役ではないのですが、例えば元ボディーガードに強めの指示を出したりするときなどに、一瞬、内場さんの本気が見えるんです。すごい声量で、鋭い声をパーンって出す。かと言って、そのために準備をしていた感じはなくて、パッとギアを上げると一気にそういうセリフの言い方になるのは見ていて驚かされます。
 新喜劇でも、締めるところは締めるみたいな役回りですからね。力が入っていないというか、楽にフラッとやって来て、やることビシッとやって、帰りますわ、みたいな。カッコいいですよ。現場での女性人気が半端ないです(笑)」

梅田芸術劇場はすごく好きな場所

―――大阪公演が行われる梅田芸術劇場 メインホールは、コロナ禍でほとんどの公演が中止になった初演を上演できた劇場で、前回も同じ舞台に立っていらっしゃいます。

 「エントランスから続くレッドカーペットの眺めや、古き良き喫茶店みたいな色合いなど、年季の入ったレトロ感があってすごく好きです。公演がなくてお客さんがいないときに、あえてあそこのトイレに行ったりしたことも何度かあります(笑)。
 東京公演会場の東急シアターオーブがある渋谷のようにどんどん変わっていく街も多い中で、ああいう場所はずっと残っていてほしいなと思うし、また時を経て行きたくなるような場所ですね」

―――お客さんの雰囲気、空気感に関して、大阪ならではと感じるところはありますか。

 「初演は大阪だけだったし、再演はマスク必須で、リアクションも控えてもらわなければならなかったので、東京のお客さんがリラックスして観てくださっている状況を見たことがないんです。だから違いはわかりません。とあるシーンでの内場さんの芝居がウケるかウケないかっていうことだけですね(笑)。前回は、大阪と東京でこんなにも違うのかと思いました。
 今回は声出しOKなので、東京でどうなるか楽しみです。僕個人としては、大阪の人間なのでやっぱりホーム感がありますね。東京はちょっとシビアな、厳しい目線が待っているイメージ。それを超えていきたいというのはあります」

―――今回は声出しOKというだけでなく、東京公演と大阪公演では光るライトスティックが配布されます。ステージと客席が一体となる場面がさらに盛り上がりそうですね。

 「あそこはキャストにとっても、お客さんにとっても最後の素敵なプレゼントという感じですよね。英国キャストの来日公演を観たときは、僕も思わず立ち上がって手を叩いていました。
 前回の公演では、マスクをしたお客さんが遠慮がちに手拍子をしてくださっている姿を見て、“僕らだけ盛り上がってごめんね”みたいな気持ちもあったんです。でも今回は思い切り楽しんでもらえるんだと思うと、想像しただけで嬉しいですね」

―――最後に、公演を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

 「さっき話した場面に限らず、お客さんに我慢してもらいながら観ていただいた前回よりもっと楽しんでもらえるのは間違いないと、キャスト・スタッフ全員が思っています。数回で中止になってしまった初演と、常にハラハラしながらの公演だった再演を経験してきたメンバーがほとんどなので、今回はそういったことを取っ払って僕たち自身も楽しみたいし、お客さんにも楽しんでもらえるよう準備しています。素敵な梅田芸術劇場での公演を、ぜひ楽しみにしていてください」

(取材・文:西本 勲)

プロフィール

大谷亮平(おおたに・りょうへい)
1980年生まれ、大阪府出身。2003年のCM出演をきっかけに、韓国でモデル・俳優として活動し、多数の出演映画が大ヒット。ドラマ『朝鮮ガンマン』ではソウルドラマアワード2014 グローバル俳優賞を受賞。2016年より日本で活動を開始する。主な出演作に、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『ノーサイドゲーム』、NHK連続テレビ小説『まんぷく』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、映画『焼肉ドラゴン』、『ゼニガタ』、『ゴールデンカムイ』などがある。2020年に『ボディガード』初演で初舞台を経験し、続いて『ボーイズ・イン・ザ・バンド〜真夜中のパーティー』にも出演した。

公演情報

ミュージカル『ボディガード』

日:2024年3月30日(土)~4月7日(日)
  ※他、東京・山形公演あり
場:梅田芸術劇場 メインホール
料:S席14,000円 A席9,500円
  B席5,500円(全席指定・税込)
HP:https://bodyguardmusical.jp
問:梅田芸術劇場
  tel.06-6377-3800(10:00~18:00)

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