江東区と芸術提携を結ぶ東京シティ・バレエ団が55周年 TCBの歴史を築いてきた名作を一挙上演。東京シティ・フィルの演奏で贈る55年の歩み

 1968年の創立以来、国内初の合議制バレエ団として、古典バレエの上演と新しい作品への探求を大切にしてきた東京シティ・バレエ団が今年、創立55周年を迎えるにあたり、その歩みを支えてきた名作を揃え記念公演をおこなう。飛躍のきっかけとなったウヴェ・ショルツ『ベートーヴェン交響曲 第7番』、3月に初演を迎えたばかりのジョージ・バランシン『Allegro Brillante(アレグロ・ブリランテ)』をスピード再演。<シティ・バレエ・セレクション>として、バレエ団の歴史を築きあげた石田種生『挽歌』、石井清子『四季』より「春」、中島伸欣『カルメン』よりパ・ド・ドゥというラインナップは、まさに東京シティ・バレエ団の歴史そのものと言える。

 さらに井田勝大マエストロのもと、共に江東区と芸術提携を結ぶ東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏が加わる本公演はバレエの魅力を一層引き立てる機会となりそうだ。1998年に入団後、数々の名作で主演してきたプリンシパル・キャラクターアーティスト・志賀育恵に、公演への意気込みを聞いた。


―――――まずは創立55周年おめでとうございます。ご自身が入団されて以来、バレエ団の歩みをどのように感じられていますか?

 「私が1998年に入団して25年。もうそんなに経ったのかというのが率直な気持ちです。自分が今、指導をする立場にもなって改めて当時を振り返ると、長い歴史を感じますね。また、『挽歌』を振付された故・石田種生先生をはじめ、多くの先生と時間を重ねながら信頼関係を築いていく中で、先生が遺された作品が今もなお生きているのが嬉しいです」

―――――東京シティ・バレエ団さんは、「Ballet for Everyone」を掲げ、バレエの楽しさ、豊かさをすべての人と分かち合うべく、地域と密着した様々な取り組みをされてきました。

 「東京シティ・バレエ団は国内初、バレエ団として自治体(東京都江東区)と芸術提携を結び、ティアラこうとう(江東公会堂)での定期公演のほか、参加料500円で分かりやすくバレエの理解を広めるワンコイン・バレエ・レクチャー、同じく芸術提携団体の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との教育プログラム、トークショーなどを江東区内の学校や様々な施設でやらせていただいています。それらの活動を通して、バレエの裾野は広がっていると感じます。例えば、東京シティ・フィルとのコラボでも、バレエやクラシックも知らず、劇場に行ったことがない子ども達にも、表現することってこういうことなんだと知ってもらえる。そういう意味でも自治体との提携はとても大きいと思います」

―――――本公演のラインナップの印象は

 「今回のラインナップからは東京シティ・バレエ団の時代を感じます。従来はバレエ団の座付き振付家による作品を多く上演していました。でも『ベートーヴェン交響曲 第7番』、『Allegro Brillante』といった海外振付家の作品も上演するようになってからは、東京シティ・バレエ団を知らない人達も観に来るようになった気がします。特にベートーヴェン初演の時には、沢山の方にお越しいただき、改めて作品の持つパワーを感じました。『Allegro Brillante』もとてもテンポが速い曲ですが、振付のバランシンらしいステップ、身体を回転する際の目線など、“バランシン・メソッド(方式)”がちりばめられています。そういったメソッドを研究されている方なども観に来ていただき、作品は私達ダンサーの為だけにあるのではないと実感しました。今回の55周年記念公演でも、様々な方々に楽しんで頂けるラインナップと言えます」

―――――本公演で志賀さんが主演する『カルメン』は、2006年の初演で第38回舞踊批評家協会新人賞を受賞するなど記憶に残る作品だと思います。

 「私の中で『カルメン』は中々、大変な作品でした。カルメンはその美貌で男たちを魅了するのですが、それを意図的にしているのか、または天性的な振る舞いなのかを演じる上で自問自答しながら初演、再演とやってきましたが、まだ答えは出ていません。今回は、カルメンとホセが結ばれる、パ・ド・ドゥ(男女2人のみによる踊り)だけですが、新しいパートナーと作品を深めながら現在、振付中でどの様に踊りが繋がっていくのか楽しみです。カルメンという強い女性像が印象的ではありますが、音楽や照明がとても美しいので、身を委ねて楽しんで踊りたいと思います」

―――――志賀さんが考えるバレエの楽しみ方はありますか?

 「例えば、今回の『ベートーヴェン交響曲 第7番』は、『のだめカンタービレ』のドラマやアニメでも頻繁に流れていた楽曲で、「のだめでかかっていた曲だよ」というと、すぐ分かってもらえます。『四季』も『カルメン』も一度は聴いたことがある曲ですし、あまり「バレエ観る!」と構えずに、自分の知っている音楽を聴きに行くぐらいの感じで観てもらえるといいですね。知識のあるなしは重要ではなく、音楽でもダンサーの動きでも、何か心に響く瞬間を体験してもらえたらなと思います。楽しみ方は自由。それがバレエだと思います」

―――――志賀さんは現在、指導者としても活躍されています。公演を通して後輩のダンサーに求めることはありますか?

 「特に『挽歌』、『四季』、『カルメン』の3本は、踊り手に情緒が求められる演目だと思います。自然の移り変わりや、人間が年を経ていくことと同じようにバレエ団も歴史を積んで風土が生まれました。そういった変化をダンサーとしてどう表現していくかということを考えることが大切で、それがバレエの芸術性に繋がると思います。今回はシンフォニックだけでなく、そのような情緒や味がある作品が揃っているので、バレエの奥深さを感じてもらえる絶好の機会といえます。私達は全身を使って表現をするので、手先までがどれだけ大切かを知ってもらいたいし、若いダンサーもこの作品から何かを感じ取ってもらいたいです」

―――――最後に読者にメッセージをお願いします。

 「お芝居にある台詞がない代わりに、私達ダンサーには身体表現があります。そこには喜怒哀楽いろんな心情が込められていて、そこにお客様1人ひとりの感性を重ねてもらえるとより楽しめると思います。馴染みがないから、知っている人がいないからという理由だけで遠ざけていると惜しい事をしますよ、と言いたいですね。特に東京はバレエだけでなく、演劇やコンサートなど様々な芸術に触れる機会が多い場所なので、是非、地方の方にも一度体験してもらい、それを持ち帰って、創作活動や日々の生活の潤いに繋げてもらえたら嬉しいです。皆様のご来場を心よりお待ちしています」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

志賀育恵(しが・いくえ)
8歳よりコヌマバレエアートにてバレエを始め、1989年、田中千賀子バレエ団に入団。『ドン・キホーテ』キューピット、『くるみ割り人形』クララを踊る。
1998年東京シティ・バレエ団に入団。2005年日本バレエフェスティバル出演。2006年『カルメン』に主演し、第38回舞踊批評家協会 新人賞受賞。平成19年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として、オーストラリア・バレエにて研修する。
2011年『Ballet Helps Japan』(ベルリン)、2012年『World Ballet Stars Gala in Kazakhstan』に出演。現在、TCBスタジオカンパニーのミストレスを務める。
2021年4月、プリンシパル・キャラクターアーティストに就任。
主な出演作品に、『白鳥の湖』(オデット/オディール)、『くるみ割り人形』(金平糖の女王/クララ)、『ジゼル』(ジゼル)、『ロミオとジュリエット』(ジュリエット)、『シンデレラ』(シンデレラ)、ウヴェ・ショルツ振付『ベートーヴェン交響曲 第7番』(第2楽章ソリスト)、『Octet』(ソリスト)がある。

公演情報

東京シティ・バレエ団創立55周年記念公演 トリプル・ビル

日:2023年7月15日(土)・16日(日)
場:ティアラこうとう 大ホール
料:SS席10,000円 S席8,000円 A席5,000円
  U25席[25歳以下] S席5,000円 A席3,000円 ※要年齢確認証持参
  (全席指定・税込)
HP:https://www.tokyocityballet.org/ 
問:東京シティ・バレエ団 mail:contact@tokyocityballet.org

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