1人の役柄を3人の俳優が演じ、音楽には環ROYを起用 ドイツで高い評価を得た作品の日本初演に本谷有希子が挑む

 長塚圭史が芸術監督を務めるKAAT神奈川芸術劇場。メインシーズン〈忘〉を締め括る作品として、チェルフィッチュの岡田利規がドイツの劇場に書き下ろした『掃除機』を本谷有希子が演出するという、極めて興味深い企画となった。

 「他人が書いた戯曲を演出するのは初めてです。岡田さんの戯曲を注意深く読みながら、ある部分では誤読したまま演出していく。今はそのやり⽅で、つらぬこうと思っています」

 登場人物のモノローグを積み重ねていくような独特な作風の岡田作品。これにどう関わっていくのか。

 「岡田さんのように身体表現を使って表現するのでなく、オーソドックスな演技でドラマを作ってきた私が、時には5分以上続く独白をどう見せていくんだろう。最初の印象はそれでした」

 そう語る本谷だが、『掃除機』では父親・チョウホウ役をモロ師岡、俵木藤汰、猪股俊明の3人の俳優が演じたり、音楽を担当する環ROYを役者として起用するなど、彼女もまたユニークな手法を用意している。

 「2019年『本当の旅』の時に、1人の役を複数の俳優に演じてもらったんですが、それが面白くて。長いこと演劇をやっていると、自分の中で凝り固まっていく感覚があって、最近はそこから如何に自由になるか、当たり前だと思い込んだところから全てくつがえしていくようにしています。
 環さんは、オーディションで役者ではない人を起用したいと思ったところ推薦されました。環さんとは現場で毎日創作していますが、凄く刺激的ですし、カンパニー全体に及ぼす影響も⼤きいですね」

 そんな本谷に白羽の矢を立てた芸術監督の長塚に、本谷はどんな想いを持っているのか。

「長塚さんとは同時期に小劇場で活動したという仲間意識があります。でも今は芸術監督ですから、この前稽古場に来てくれたときも、気楽に“圭史さん”と呼んでいいものか、ちょっと考えちゃいました(笑)。話をもらったときは引き受けたら大変なことになるという予感があり、正直絶対引き受けてはいけないと思って。でもやってみないとわからないし、結局は岡⽥さんの戯曲への好奇⼼が勝ってお引き受けしました。岡田さんの戯曲を演出する体験が、後々の私の演劇⼈⽣に無駄になることはないだろう、と良くも悪くもきっとなにがしかの結果が導かれるだろうと思います」

 演劇界の事件になり得るこの作品。見逃さない手はない。

(取材・文:渡部晋也 撮影:峰田達也(平賀スクエア))

プロフィール

本谷有希子(もとや・ゆきこ)
石川県出身。2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。『遭難、』で鶴屋南北戯曲賞を受賞。『幸せ最高ありがとうマジで』で岸田國士戯曲賞を受賞。小説家としても活躍し、受賞歴も多く『ぬるい毒』野間文芸新人賞、『自分を好きになる方法』三島由紀夫賞、『異類婚姻譚』芥川龍之介賞受賞など。近年、著作が海外でもさかんに翻訳され、様々な言語で出版されている。英語版は「The New Yorker」、「The New York Times」などで大きな話題となった。

公演情報

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』

日:2023年3月4日(土)~22日(水)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉
料:一般6,500円 平日早割[3/7~10]6,000円 ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.kaat.jp/d/soujiki
問:チケットかながわ tel.0570-015-415(10:00~18:00)

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