娯楽(エンターテインメント)の女王「江古田のガールズ」が、結成13周年記念特別公演として、怪談界のレジェンド稲川淳二の『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(講談社刊)の初演劇化となる舞台、演劇版『稲川怪談』を上演する。
2008年、日本大学藝術学部演劇科在学中に山崎洋平が「楽しくて面白くて分かり易い娯楽(エンターテインメント)作品の上演を目指して、単独で結成した劇団「江古田のガールズ」。オーソドックスでシンプルなストレート・プレイ、音楽性の強い「似非ミュージカル」、宴会芸性の強い「豪華絢爛ショー」と、娯楽(エンターテインメント)であればなんでもありの精神で活動を続けている。
そんな「江古田のガールズ」が挑むからには、怖いばかりであるはずはなく、でも怪談である以上怖くないはずもない、演劇版『稲川怪談』に臨む思いを、キャストを代表してなるほどこう来たか!の白装束に身を包んだ伊崎龍次郎、健人、そして脚本・演出の山崎洋平が、自身の「ちょっと怖い話」も交えて、語り合ってくれた。
───稲川淳二さんの怪談を演劇に、と思われたきっかけから教えていただけますか?
山崎「講談社さんから『舞台を一緒にやりませんか?』というお話をいただきまして、折角講談社の方とご一緒に作れるのであれば、何か原作ものにできないかな?と思っていた時に、たまたまツイッターで稲川淳二さんが『稲川怪談』を出版されるというのを見て『これだ!』と。僕はずっと以前から稲川淳二さんが大好きなので、この『稲川怪談』を原作にいかがでしょうか?とお伺いしたところから、すべてが動いていったんです」
───それはすごいタイミングですね。
山崎「そうですね。本当にすごい出会いだったんだなと思います」
───その『稲川怪談』が演劇になるとお聞きになっていかがでしたか?
伊崎「怪談話ってみんなで聞くものというイメージがあるだけに、演劇になった時どうなるのか?が、想像できなかったぶん、すごく興味がわきました」
健人「おどろおどろしい感じになるのかな?とかね」
伊崎「そうそう。きっと未だかつてないものになるんだろうなと、僕たちキャストも楽しみです」
───どういうテイストの作品を目指されるのですか?
山崎「稲川さんの怪談は映像化はされているんですが、演劇化・舞台化は初めてだということでしたので、まだ誰も観たことがない訳ですから、どんな世界観にしようかなと思った時に、やはり『怪談』ですから、怖い気持ちをお客様に抱いていただくためには説得力が大事だろうと。リアルさが必要だと思ったので、お二人の役柄も実年齢に近いような好青年達という設定ですし、本当っぽさを12人の出演者で作ってお客様に提供できたら、と思っております」
───いま、本当にそこで起きていることという感覚でしょうか?
山崎「そうです、そうです」
───そう伺っていかがですか?
伊崎「リアルであればあるほど怖いと思うので、そこがお客様に伝染するといいなと思います。我々がまずリアルに感じ取った恐怖体験をお客様と共有して、一緒に体験していくような感覚になれたら、没入感の高いホラー演劇になるでしょうから、舞台と客席の垣根のない、肌で感じとれるような演劇にしていきたいです」
健人「映像だとお話として見られると思うのですが、やっぱり同じ劇場空間にいるというのは、同じ空気を感じることができますから、お客様をどんどん引き込んでいけるようにしていきたいです。一緒にその空間を楽しめる、恐怖感も本当に今ここで起こっているような感覚になれるんじゃないかと、今のお話を伺ってますます楽しみになりました」
───山崎さんの「江古田のガールズ」はずっとエンターテインメントを目指していらして、それがこの作品にも色濃く出てくるのでは?と思いますが、エンターテインメントのどこに魅力を感じていらっしゃいますか?
山崎「僕自体の好みだと言ってしまえばそれまでなんですけれども、入場料をお支払いいただいて、わざわざ時間を割いて来てくださったお客様に、本当に楽しいものをご提供したいんです。特に我々舞台人はお客様に無形のものを如何にしてお渡しできるかだと思うので、やはり僕はその2時間なら2時間の演劇で楽しさを提供していきたい。僕自身も演劇で救われたり、とても面白い体験を演劇から得させてもらったので、作り手としてもそうありたいなと思っています」
───キャストのお二人は、こうしたエンターテインメント性の高い作品についていかがですか?
伊崎「まさに山崎さんがおっしゃっている通りだと思うのですが、劇場に出向いて演劇を観るってやっぱり特別なものじゃないですか。観劇の日を楽しみに仕事を頑張ろうとか、とびっきりオシャレをしようとか、その日に向かっていく気持ち自体から活力になっていると思うんです。僕自身も演劇を観に行く時ってものすごくワクワクして、これをきっかけにちょっとだけ人生が変わるかもしれないという、淡い期待も抱きますし、ちょっと悩んでいる時に何かヒントがみつかるかもしれないなとか、そうした自分の人生に足りないピースを補ってくれるものだというのが、僕が演じる上でも観る上でも演劇に対して持っている思いで。ですから観に来てくださったお客様にも、何かひとつでも持ち帰っていただけたらいいな、そのために全力で、皆で良い作品を作りたいなという気持ちがあるので、やっぱりエンタメは特別なものだと思っています」
健人「本当にそうで、お客様はわざわざ時間を作り、チケットを購入して、劇場に足を運んでくださる。その時間とお金があれば、色々なことができるなかから、演劇を観ることを選んでくださっているので、その体験で『明日からも仕事を頑張ろう』とか、生きていいく上でほんの少しでもいいから活力になるものをお届けできたらいいなと思っています。
まだまだ暗いニュースも多いですが、演劇を観てくださっている間だけでも、お客様の心を明るくできたらいいなと思いますし、演劇、エンターティメントにはそういう力があると信じています。ですから演じる側として、お客様が1人でも、100人でも、1000人でも何も変わらずに、お客様がいらっしゃる限り常に全力でお届けするのがいいんじゃないかなと思って日頃からやっています。それにお客様が喜んでくださったら、僕たちも元気になれる、僕自身の活力にも変わるんです。そういうエンターティメントがすごく好きで、ずっとエンタメをやっています」
───やっぱり同じ空間ですと、いま客席のみなさんはマスクをしていますけれど、楽しい!と感じていらっしゃることは舞台にも伝わりますか?
伊崎「楽しんでくださると、一瞬で劇場の空気が変わるんです。『目は口ほどに物を言う』じゃないですけど、本当に目を見ると喜んでくださっているのがわかりますし、カーテンコールでお客様の嬉しそうなお顔を拝見するとすごく嬉しいです」
山崎「不思議なんですよね。空気って見えないものですけど、『あ、お客さんが引いた』とか(爆笑)。瞬間にわかるよね」
伊崎「わかります、わかります!」
健人「本当に空気感って伝わりますよね」
山崎「あれこそライブの醍醐味で、演じる2人もそうでしょうし、お客様も一度その空気を体験されるとやめられなくなりますね。今回は特に『稲川怪談』の初演劇化ですから、演劇は観たことがないんだけど、興味はあるなと思ってくださっている方も多いと思うので、今もみんなで言ったように、エンターティメントの要素がたくさんある、怖いだけではない舞台なので、是非お越しいただけたらなと思います」
伊崎「いま特に、エンターティメントにとって厳しい状況が続いていますが、だからこそお客様の拍手の圧というか、伝えてくださろうとするものがすごく大きくて。やっぱりお客様と演じ手とで一緒に作っているということが、より強く感じられるんです」
───そう考えると、お客様も毎回変わりますから、ライブは本当に一期一会ですね。
山崎「そうなんです! 僕はお客様に笑っていただきたいという気持ちが強いものですから、このお昼の回はすごく盛り上がったのに、夜はなんでこんなにシーンとしているんだろうとか、もうドキドキすることもあって!」
健人「あります、あります!」
山崎「いったい誰が悪かったんだ!?とか、今はできませんが、終演後飲みにいけていた頃は言いあったりもしましたけど(笑)。そういうことも含めて、本当に一期一会だなと思います」
───ですから、観にいく側としても同じ作品でも複数回観れば、まったく違う印象になったりもするので、今回は特に怪談でエンターティメントということですので、1回1回が楽しみですが、その怪談というところで、ご自身がこれはちょっとホラーだったなという、決して深刻なことでなくていいのですが、何か『ちょっと怖い話』のエピソードはありますか?
伊崎「僕は全く霊感がないので、ホラー映画やお化け屋敷なども楽しめるし、中学生時代などには深夜にホラー映画を見続けていたくらいなんです。だから怖い話の耐性はとても強い方なのですが、ある日男3人で朝5時からやっている、朝焼けが見られる山のふもとの温泉に行こう!という話になって、深夜にドライブをしたことがあったんですね。結構大きな音で音楽をかけながら、わいわいと山を登っていって。その時ふいに目の前に男女のカップルが現れたので、すごくびっくりして! 運転席にいた友達は気が動転して、ただ車を停めるのに必死だったから、何も見えていなかったんですけど、助手席の僕と、後部座席の真ん中にいた友達は、顔がうっすらとぼやけて、口元だけが笑っていて、服装がまるでバブル時代の肩パットが入ったWのジャケット姿の男性と、ボディコンの女性だった、までちゃんと見えていたんです。でも停まったら誰もいなかった!」
健人「怖っ!」
山崎「足はあった?」
伊崎「それは2人でも言い合ったんですけど、足元はぼんやりしていたよねと。未だに僕は幽霊って信じてはいないんですが、その時見たことは事実だったと思っています」
健人「この話のあとには話しにくい(笑)。(山崎に)何かありますか?」
山崎「僕も怖い話、ホラー、怪談話が大好きで、1人で平気で観られるんですが、去年の夏にある小劇場で場当たりをしていたら、後ろのブースの方から『ふふ、ふふ』って声が聞こえたんです。照明さんかな?と思ったんですけど、スタッフさんってあまり笑っているイメージがないので『さっき笑ってました?』って聞いたら『まさか! 今日初日だから一生懸命で、笑ってなんかいられません』と言われて。じゃあ、あの笑い声は何だ?ということがありました。それでも僕は信じてはいませんが、劇場にはそういう伝説が結構あるにはあると思う」
健人「貼り紙が貼ってあるところもありましたよ! 『女の子が出てくる時があるけど、目を合わさないでください』って!」
伊崎「本当に?」
健人「あとは、いつも通り本番やっていて、確かに普段は聞こえない声が聞こえた時はあります。すごく低い声だったり、とても高い声だったりが聞こえて、気のせいだと思って芝居は続けるんですけど、聞こえる時はありますね。それから、ついこの間の公演の初日の夜にはホテルで金縛りにあいました。寝ていたら何か柔らかいものが乗ってくる気配を感じて……夢だったと思うんですけど」
山崎「いいね~、怪談らしくなってきたね(笑)!」
伊崎「1番怖い話してるよ(笑)」
健人「待ってください! 僕、お二人と違ってビビりなんですよ! 怖がりなんです!」
───確かに劇場って、色々な方の気持ちが詰まっていますから、地下に怪人もいるかもしれませんが(笑)、守られているな~と思うことも多いです。
山崎「あ、そうですね、怖いではなく守られているっていう感覚もね」
───そうですね。ちょうどいまのお話からも、ちょっと怖いけれど、エンターテインメントという片鱗が伺えると思うので、『稲川怪談』初の舞台化を、皆さんで作られることを楽しみにしていますが、では改めて演劇版『稲川怪談』を楽しみにしている方たちに、メッセージをお願いします。
伊崎「普段怪談や怖い話が苦手な方でも、夏の終わりに楽しんでいただける作品になると思いますので、怖い話はちょっとという方も、もちろん大好きな方も楽しみにしていただけると嬉しいなと思います」
健人「僕もいま言った通り怖がりなんですが(笑)、お客様に楽しんでいただくために精一杯頑張っていきたいと思いますので、是非劇場にお越しいただけたら嬉しいです」
山崎「怖いだけだとちょっと嫌だなと思われる方もいらっしゃると思いますが、これはとても楽しい公演になりますから。『怪談』というだけで怖いのかな?と心配されることなく、安心してご来場いただければと思います。お待ちしております!」
(取材・文&撮影:橘 涼香)
プロフィール
山崎洋平(やまざき・ようへい)
宮城県出身。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース卒業。2008年12月12日、「江古田のガールズ」旗揚げ。主宰。劇団全作品の脚本・演出を担当。また三軒茶屋ミワとして、俳優・歌手活動もしている。「娯楽(エンターテインメント)」をあらゆる角度から追求し続けている。
伊崎龍次郎(いざき・りゅうじろう)
大阪府出身。2014年、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンにて本格的に俳優デビュー。舞台を中心に多彩な活躍を続けている。近年の主な舞台作品に、『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、舞台『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』、舞台『佐々木と宮野』、MANKAI STAGE『A3!』シリーズなどがある。
健人(けんと)
大阪府出身。主に舞台を中心に活躍を続けている。主な出演作品に、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、斬劇『戦国BASARA』小田原征伐、舞台『どろろ』、『天才てれびくん the STAGE』~バック・トゥ・ザ・ジャングル~、Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャスなどがある。9月には、出演映画『COLOR CROW─緋彩之翼─』の公開が控えている。
公演情報
江古田のガールズ 十三周年記念特別公演
演劇版『稲川怪談』
日:2022年9月27日(火)~10月2日(日) 場:Theater Mixa
料:特典付きS席[1階席]8,200円
S席[1階席]6,800円
A席[2階席]4,800円(全席指定・税込)
HP:https://www.ekoda-no-girls.com
問:江古田のガールズ
mail:info@ekoda-no-girls.com