演出の石毛元貴と、脚本の佐藤信也がタッグを組んだ舞台『the Selected World』は、己の記憶を断片的になくした12人の男女による、濃密な密室会話劇だ。全てを握る“ジャッジメント”という存在は「人生とは選択の連続である! 此処はあなたたちにとっての運命の分かれ目となる場所で、元いた世界に戻りたいならば、選択をし続けなければならない」という。なぜ、私たちは此処にいるのか? 己の人生の選択は間違いだったのか?
2020年11月に初演された本作が、ブラッシュアップを経て、再演される。今回、出演する横山涼、上遠野太洸、賀集利樹、演出の石毛元貴に話を聞いた。
―――再演ということですが、結構書き直されたり、演出プランを変更されたりしますか。
石毛「はい、多少書き直していただきました。特に後半が少し変わって、より人間っぽくなって、ブラッシュアップして……。脚本家が本を書いたときから情勢も変わりましたし、違和感を持った部分をちょっとずつ変えていると思います。
演出についても、初演のイメージや過去の自分の演出プランに当てはめては良くないなと思っていて。役者さんそれぞれがそのままでいいのかなと。確かに役になるというのは、自分ではないものになることなんですが、そのままの人間がいた方が人間味があって面白い。そのままの役者でいてくれれば、生感があって、楽しいのかなと思います」
―――それぞれのキャストに期待されることは。
石毛「横山くんは素直にやっていただければと思いますし、賀集さんも賀集さんでどんどんやっていただければ。エイト役の上遠野くんが一番難しいと思います。脚本が変わりましたから」
上遠野「え、脚本が変わって、さらに難しくなったんですか? もともと最後の最後にガラッと変わる役でしたけど……!」
石毛「後半部分でより人間味が増す描き方をしているんですよ」
上遠野「前回の脚本では、エイトは改心するんですね。けど、読んでいて、違和感がありました。荒れ狂って、自分の考えや本音を言っていたのに、短時間で急に変わったから」
石毛「もともとエイトは素直で、一番人間らしい役かもしれないです。脚本家とね、エイトって、なぜここに行ったんですかという話をしたんですよ」
上遠野「それ俺も気になっていた! 前段の掘り下げが書かれていないのに、最後の最後に人間性が暴露されるから。どういう積み上げをしたらいいんだろうと思っていました。今回はどんな脚本になるんだろう。楽しみです」
―――出演が決まった時の気持ちや意気込みを教えてください。
賀集「お声がけいただいて、本当にありがたいです。まだ僕の中で役はモヤっとしている状態なんですけど、そのままモヤっとしたまま、つかみどころがないままでもいいのかな、と思ったりしています。あとは、アシスタントを除く12人の彼らとの距離感に悩みますね」
上遠野「ジャッジメントの感情は確かに分かりづらいですよね」
賀集「そうですよね。感情をあまり出さないポーカーフェイスだったりするのかなと思っています。僕とアシスタントが唯一出入りがある役なのですが、周りとの距離感を大事にしたいと思っています。……とはいえまだ稽古前なのでね、どうなるか分からないですけど(笑)、その辺りを模索しながら楽しい作品にしていきたいです」
横山「僕は場をまわすような役で、その責任を感じています。一方で、一番常識人という雰囲気を持つキャラでもある。どこまで個性が出せるのかなと思っています。
人間の本質が出てきて、それが複雑に絡み合うという素敵なお芝居だなと思ったので、それをいかに丁寧に積み上げていけるか。まだ全員のキャストとお会いできていないのですが、なんとなくの設定の中で、みなさんとどういう化学反応を生み出せるのか。楽しみですね」
上遠野「俺、脚本を読んでいて、エイトのこと、割とイラッと来たんですよね(笑)。よくいるじゃないですか、何の責任も持たずに正論だけ言う奴。そんな感じに見えて。相手の事情を考えずに、とりあえず正論をぶつける奴。相手からしたら事情があるかもしれないのに。そこで正論をぶつけられても戸惑ったり苦しかったりするかもしれないのに。
だから最初はエイトにイライラしたんです。これからどうエイトを見せていくかは今後の稽古次第。最初に感じた第一印象を大切に役を作るか、それとも別の路線で行くか。探りながらやっていけたらいいなと思っています」
―――皆さんは事前に役をつくっていかれるタイプですか、それとも稽古場で役をつくるタイプですか。
賀集「僕は現場派ですかね。もちろんある程度自分で形はつくっていきますが、現場で感じたことや、実際に立ってみて感じたことを大切にしたいと思っています。それに家ではあんまりガッツリ脚本を読まないんですよ、結構さっぱり読んでみて……」
上遠野「分かります。僕もここは別に本筋関係ないと思ったら、結構読み飛ばしたりしています(笑)」
賀集「それで後から読んでみたら『ここ、こんなこと書いてあったんだ、結構重要だったな』みたいなこともありますよね(笑)」
石毛「稽古で分かったりすることもたくさんありますしね」
上遠野「そう、読んでいるだけでは分からないことが圧倒的に多いですよね」
賀集「今回もやりとりが多いので、相手からいろいろ投げられたものをヒントにつくっていきたいですね」
横山「僕は台本を読んで、考えて持っていくタイプ。でも結局、稽古をして皆さんのお芝居をみて、変わっちゃう。あんまりガチガチに固め過ぎていくと変えるのが大変だったりするので、柔軟に対応する準備をしていくようにしています。余白や選択肢をできるだけ持って、臨んでいます」
上遠野「俺、読みながら考えるというのが苦手で。読みながらだと文字情報しか入ってこないんです。役について何も浮かんでこないんですよね。そもそも家で台本読むのが苦手なんですけど、まぁ頑張って一回は読んで、そのあとボーッと考えたりしています。
頭の片隅に置いておいておくと、アイディアが浮かぶことがあるんですよ。それで稽古に行って、立ってみて……という感じですね」
―――最後にお客様に一言お願いします!
賀集「僕は初演を見ていないんですけど、舞台上に常に十数人がいる舞台はなかなかないですよね。その分、見応えがあるだろうなと思いますし、稽古の段階でどうなるんだろうな。立ち位置も考えないと、ぐちゃぐちゃになりそうです(笑)」
上遠野「絶対重なるところでそうですよね(笑)。で、意識しすぎて横並びになってもつまらないというね(笑)」
賀集「そう。とにかく楽しみですね。話の内容も……今の世の中、結構批判をする人が多いじゃないですか。批判をする人が批判された時って、自分が批判されることを受け入れてない人が多かったりする。だから、この作品を見て、自分の過去ややってきたことを見つめ直すきっかけになってくれるといいのかなと思いますね」
横山「あんまり主演感がないんですよね(笑)。でもそれがいいなと思っています。ジャッジメントらを除いた12人それぞれに四苦八苦がある。みんな悩みがあるけれど、記憶がなくてフラットな状態でそこにいる。強いて言うなら、僕がまとめたり、キーになったりすることがあるけれど、それぞれにちゃんと人間がそこにあって、絡み合っている。それをお客さんは傍観している。
お客さんにはフラットに見て欲しいですね。それで何か気づくことがあるかもしれないし、今のご時世や自分と重なるキャラクターがいるかもしれない。いろいろなことを感じていただける舞台にできたら面白いかなと思います。精一杯、頑張ります」
上遠野「この作品の話だけではなくて、常日頃ふとした瞬間に感じることではあるんですけど、いわゆる普遍的な正しさはないのかなと思っています。それをお客さんと一緒に僕も考えられる機会だと思います。
ずっと会話で進んでいくお芝居。所々でジャッジメントが入ってくるけど、基本的にはずっと12人が何かしら喋っている状態なので、のぺーっとならないようにしたいですね。ドラマチックな部分を作りつつ、でも変にお芝居っぽくしないようにしたいです」
石毛「これもエンターテイメントなので、楽しんでほしいですよね。観てくれたお客様が明るく帰ってくれたらいいなと思いますけど、どう感じていただくかはお客様が決めること。僕らはいいものをつくることだけを考えてやります」
(取材・文&撮影:五月女菜穂)
プロフィール
横山涼(よこやま・りょう)
1995年3月7日生まれ、東京都出身。2018年、スーパー戦隊シリーズ第42作『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』にて、レギュラー出演。その後、『サイン』(EX)、『ニッポンノワール』(NTV)、などに出演。現在、『THE BAD LOSERS』シーズン1、シーズン2(YouTube)が配信中。近作の舞台では、『あの日わたしをはだかにして』(2022)、『淡海乃海〜声無き者の歌をこそ聞け〜』(2021)など。
上遠野太洸(かとおの・たいこう)
1992年10月27日生まれ、宮城県出身。2010年に開催された「第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞。2011年、「劇男JB」の旗揚げ公演で俳優デビューし、その後も多数のテレビドラマ・映画・舞台に出演する。近作に、舞台『穏やか貴族の休暇のすすめ。~新迷宮と貴婦人の結婚~』(2022)、舞台『タクラマカン』(2021)など。
賀集利樹(かしゅう・としき)
1979年1月16日生まれ、兵庫県出身。2001年に『仮面ライダーアギト』で主役に抜擢され、俳優デビュー。その後『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)、NHK大河ドラマ『義経』に出演。ドラマだけでなく、舞台やバラエティー番組などにも精力的に出演している。近作に、演劇ユニット100点un・チョイス!第13回公演 舞台『ヒロイン』(2021)、自身の演劇ユニット「かしこみかしこみ」第1回『ささがね』(2021)・第2回公演『たはぶれ』(2021)など。
石毛元貴(いしげ・もとたか)
8月3日生まれ、千葉県出身。MileStone代表。俳優として活動を始め、舞台を中心に映像作品にも進出。代表作に、関西テレビ系『時空探偵 おゆう 大江戸科学捜査』源七役など。2015年に自らが代表を務める演劇団体「MileStone」を旗揚げ、全ての作品で演出を担当するほか、他団体の公演の演出も積極的に行っている。近作に、『ティアムーン帝国物語THE STAGE Ⅱ』(2021)、『the Selected World』(2020)、『Re:turn~過去と未来』(2019)など。
公演情報
CRUSH KITCHEN ENTERTAINMENT vol.2
『the Selected World』
日:2022年8月3日(水)~8日(月)
場:シアターグリーンBIG TREE THEATER
料:S席7,500円 A席6,000円(全席指定・税込)
HP:https://cke.amebaownd.com/
問:CRUSH KITCHEN ENTERTAINMENT
mail:crush.kitchen.e@gmail.com