豪華声優×生演奏! 音で魅せるミステリー!? 音楽の調べにのせ、シャーロック・ホームズが謎に挑む

 名作人気ミステリーを上演することを目標に立ち上がった「ノサカラボ」。コメディを愛し、コメディを得意とする演出家の野坂実が「コメディとミステリーは似ている」という考えのもと、子どもの頃から大好きだった英国ミステリー『シャーロック・ホームズ』を、信頼を寄せるメンバーに自らオファーし、全力で上演する。声をかけたのは、演劇ユニット「ラフィングライブ」で共に数々の英国コメディを作ってきた声優の山寺宏一と水島裕。また、三石琴乃、島﨑信長、山路和弘など実力確かな声優陣が集まった。さらには生演奏のオリジナル楽曲で、声のプロらによる朗読劇として、8月末の土日に19世紀のロンドンへと観客を誘う。世界中で愛されるシャーロック・ホームズに、このメンバーはどのように挑むのか……この布陣ならではの楽しみを聞いた。


コメディ好きには、推理モノ好きが多い!?

―――なぜシャーロック・ホームズをやろうと?

野坂「子どもの頃からずっとシャーロック・ホームズが好きで。もともとコメディが好きな理由が、瞬間的なお笑いが面白いだけじゃなく、いろんな伏線があってそれを回収するのがすごく好きなんですね。それが好きな人は、推理モノが好きな人も多いんです。推理モノも、伏線が張ってあって、トリックを回収していく。だからいろんなプロデューサーに『こういうのやりたいんですよ。やらない?』と語りかけていたんですけど、誰も乗ってくれたかったんですよ」

二人(爆笑)

野坂「ほぼ全員に言ってるんですよ。みんな『ああ、いいですね!』と言ってくれるんだけど、『じゃあやる?』と聞くと『コメディお願いします』って言われちゃう。コメディの依頼しか来ない。かまってくれないなら自分でやろうと思ったのが、一番のきっかけです。
一番やりたかったシャーロック・ホームズに決まった瞬間、頭の中に山寺さんと裕さんが出てきて、そのままお二人にお電話しました。六本木の駐車場だったのをすごく覚えてます。山寺さんに電話したら『シャーロックかい? 条件あるよ。なるべく台詞でやりたいんだよね』と言われ、何も決まってないのに『大丈夫です!!!』と」

山寺(笑)

野坂「裕さんもすぐに『いいよ!』と言ってくださり、二人ともすごく短い電話で終わりました」

―――なぜ「この二人だ!」と?

野坂「シャーロックとワトスンの軽妙な会話のやりとりができるなと思ったんです。山寺さんも裕さんもすごく頭の回転が早いので、いつもウィットに富んだ会話をポンポン交わして僕らを笑わせてくれるんですよ。もうこの二人しかいない!と思って声をかけちゃいました」

―――山寺さんと水島さんはシャーロック・ホームズ作品は何かご覧になっていますか?

山寺「子どもの頃はシャーロック・ホームズを好きな人が周りに多かったんですよ。だからあえて『俺はルパンだ!』とアルセーヌ・ルパンの本を買って読んでいました。でも声優になって最初の主役の吹き替えが『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』だったのはすごく記憶に残っていますね。
数年前にも三谷幸喜さんの人形劇で、15歳のシャーロックをやりました。シャーロック・ホームズを寄宿舎を舞台に置き換えた作品なので、原作とは違うんですが。大人のシャーロックをやるのは今回が初めてです」

水島「シャーロック・ホームズっていつのまにか自分の周りにあった作品なんですよね。推理小説って時代とともに変化して、黒電話が携帯になったりするのに、130年前の作品が今も支持されているのはすごい。今でも“シャーロキアン”(※シャーロック・ホームズの熱狂的なファン)という言葉があるのも、たぶんシャーロックとワトスンのキャラクターの魅力なんでしょうね。シャーロックは優等生っぽくない変人で、薬物をやっていたりするけど、事件を解決するにあたっては『見るんじゃなくて観察するんだ』とか今でも共感できることがあるのは魅力かな。山ちゃんはぴったりだと思います。長身だし、変わってるし」

山寺「えっ、変わってるのかなぁ? 三谷さんには『ちゃんと目を見て話さないところがある』って言われたけど、俺ってそんな感じ??」

水島「違う違う(笑)なんていうか……まぁ、神経質なところもあるじゃないですか」

野坂「ありますあります。細かいし、こだわるところは頑なに譲らない」

山寺「そうか……」

水島「だって、劇場の楽屋のガラスに演出家に言われたことを付箋で貼っていくんですよ!? どんどん鯉のぼりみたいになっていく!」

山寺「鏡ね。ガラスじゃなくて」

水島「あ、そうそう、楽屋の鏡に(笑)」

山寺「……今みたいに、伝わるだろうにあえて訂正しちゃうところとか細かいんだろうね(笑)」

水島「付箋を貼っているのは真摯さだと思うんですね。自分で自分を追い込んで行く時の細やかさは、シャーロックに合ってるなって」

山寺「演出家への皮肉も込めてるんですよ。『頭で整理できないくらいダメ出しが多いんですよ』って。でも、そうか、神経質なんだ……」

水島「今頃、言うか(笑)」

―――シャーロック・ホームズをアレンジした映画やドラマやアニメはたくさんあり、いろんな描かれ方をしています。野坂さんは今回のシャーロックをどんなイメージでつくりますか?

野坂「影がある感じかな。原作のシャーロックって事件を解決していない時期には薬物をやっていたり、神経質だけど、そのエキセントリックな部分に愛嬌がある。原作そのままのキャラクターでやろうと思います」

朗読なら、もっと自由になれる

―――朗読劇でミステリーをやろう、というのはなぜなんでしょう?

野坂「シャーロック・ホームズの短編集をやろうとすると、演劇だと場面転換が多くなる。朗読の方が圧倒的に自由度が増してくるなと思ったんですよ」

水島「演劇よりも言葉の方が『飛躍させる』というところは圧倒的に強いですしね。舞台で“海”を作るのは難しいけど、言葉や音なら、観客それぞれにリアルな海を思い浮かべてもらうことができるんではないでしょうか?」

山寺「最初、よく朗読でやろうと思ったな、と思ったんだよね。原作は推理の説明だらけだから、どうやって映像もなく伝えるんだろうと不思議だった。しかも主に台詞だけで、どうやってワクワクさせるんだろうって」

野坂「耳で聴いてわかるようにかなりカットしました。原作に忠実にやろうとすると説明台詞のオンパレードになってしまうので、地名や細かい固有名詞を極力省いて、ドラマの部分を立ててやります。念のため、シャーロキアンの方にどう思うか訊いてみたら、『忠実であることにあまり意味はないと思います』と言ってくださりありがたかったです」

山寺「物語として面白くなるのが一番良いよね。シャーロック・ホームズについて詳しくない人にも楽しんでもらわなきゃいけないから」

野坂「そうなんですよ。原作を知らない人が楽しいと思えるようにしないと。そのシャーロキアンの方にはっきり言われたのは『自由にやるのがいい。解釈も映画やドラマによって違っているから、原作に寄せる必要性はない』と。たとえばワトスンが、原作では言わないジョークを言ったりしている。原作ではそんなに軽妙なやりとりはなくて、山寺さんと裕さんの二人からイメージしています。ワトスンがちょっと面白いことをしたり失敗したりするのは、楽しいと思いますよ」

水島「要は作品として面白いかどうかだからね。あと、共演者の方がいろんな役をおやりになるんでしょう?」

野坂「そうなんです。三本の短編集なので少なくとも一人三役、多い方はもっとやっていただきます。それもまたわがままいっぱいで、どうせやるなら重厚な布陣でいきたいと、ワクワクするメンバーに集まっていただきました。やりたい人達とやれるのが楽しいですよ」

―――しかもオリジナル楽曲の生演奏ですね。

野坂「まだ打ち合わせ段階なんですけど、面白いくらいたくさんの曲を発注しちゃってプロデューサーがちょっと苦しんでるので、減らそうかなと」

二人(笑)

野坂「自分の企画だとどんどん頼みたくなっちゃうんです。いつもならプロデューサーに『ここまでだよ』って言われるんだけど」

山寺「でもとことんこだわって欲しいですね。朗読にとって音楽は本当に大きいから」

水島「しかもサントリーホールだから、音楽を聴かせるには最高の場所ですよ」

今後の展望

──今回は #1。これからシリーズ化していくそうですね。

山寺「企画名がノサカラボなので、一回やってダメだったら野坂さんだけ続ければいい(笑)」

野坂「たぶん山寺さんは『一回やってみてからだな』と思ってると思う(笑)。裕さんは『楽しいから大丈夫だよ!』と思ってくれているだろうな」

水島「そうだね(笑)」

山寺「別に簡単に人を信用できない性格というわけじゃないけど、自分は本当にシャーロック・ホームズというものを朗読でどう表現できるかと思うんだよね。舞台ってやっぱり気軽にはできない。面白かったら最高のものになる分、稽古もしっかり時間をかけるし、劇場までお客さんに足を運ばせるし、お互いにとってパワーがいること。簡単に『いいね! 毎年やろうよ!』とは言えないなぁ。しかも世界中に愛されているものをどうやって朗読でやるのかという責任もある」

水島「真面目なんだよね」

野坂「やっぱりお客様にお金をいただいてわざわざ来ていただくんだから、結果出さなきゃだね。頑張ります」

山寺「面白くなる予感はしていますけどね。まぁ、今回は朗読だからラフィングライブみたいに動き回って重労働ということはないと思うけど……」

野坂「ラフィングライブの初演では、終わった後に三人とも体調崩しましたもんね」

山寺「僕と裕さんは病院のとなりのベッドで点滴を打ったんですよね」

水島「待ち合わせしたわけじゃなくて、ほんとに偶然。『あれ、点滴のとなり、山ちゃん?』って」

野坂「山寺さんは肉離れにもなっていましたよね。『稽古に来るな』と言ったんですけど病院からそのまますぐ戻ってくるし、翌日も『山寺さんは稽古はお休みです』と言ったのに稽古場に来て、代役に動いてもらいながら声だけ当ててた。でもしゃべっているうちにどんどん興奮してきて立ち上がるので、『山寺さん座ってください』って」

山寺「それくらいやらないとできないと思ったんですよ(笑)」

―――ずっと一緒に作品を作ってきた三人なので、思い出とともに強い信頼もあるんでしょうね。

野坂「だからいつもの感覚ですよ。たぶんお二人が120%の力で動いてくれるので、僕は作品のクオリティをがっちり上げていく。三人とも興味が違う場所にあるので揉めたこともないですし、信頼しています」

山寺「ただ今回はいつものコメディじゃないからね。不思議な感じですよ。どんな演出されるんだろう……俺、ラフィングライブの時に『山寺さん、それかけ逃げ(※柔道の技。返し技をされない程度に浅く技をかけるふりをすること)です』って言われたことある」

水島「そうなの!?(笑)」

山寺「『笑いがかけ逃げになってる』って、そんなこと言われた役者いますかね!? お客さんをしっかり捕まえて投げることで笑わせなきゃいけないんだけど、『形だけでやってる。ちゃんと捕まえてないとかけ逃げになっちゃうから、それじゃお客さんは笑いません』って言われて……うまいこと言うな~!と」

野坂「(笑)今回はそんなに言わないと思いますよ! 前に一緒に朗読劇をやった時も、二人の演じるイメージがすごくしっかり伝わってきましたし、ほとんどなにも言ってないと思います。なにより二人とも、聞いていて違和感があるところは自分ですぐ修正する。僕が『聞いていて引っかかるな、言った方が良いかな、でも大丈夫かな』と思っていると、次にやった時には違和感なくやってくれる。これが“一流”といわれる声優の仕事なんだな、と。だから楽しいですよ」

山寺「今回もそうなるとは限らないですよ。野坂さんに『シャーロキアンの前に出せませんよ!』、『お二人シャーロック・ホームズとワトスンのことわかってます?』って言われる可能性あるから、頑張りましょう」

水島「まあ、産みの楽しみだよね……苦しみよりも」

山寺「そうだね、楽しみましょう!」

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

山寺宏一(やまでら・こういち)
1961年生まれ、宮城県出身。
1984年に声優を志し東京俳優生活協同組合の養成所に入所。修了後、1985年にアニメ『メガゾーン23』でデビュー。以後、声優としてアニメーションや外国映画の吹替え、バラエティ番組の司会、ラジオのDJ、映画・ドラマへの出演、歌手など幅広く活動。舞台では水島裕、野坂実らと演劇ユニット「ラフィングライブ」を共同主宰し出演するほか、舘川範雄、三谷幸喜、宮田慶子、青井陽治ら演出の舞台に立つ。

水島裕(みずしま・ゆう)
1956年生まれ、東京都出身。
特撮番組『愛の戦士レインボーマン』の主題歌を歌いデビュー。声優として数々のアニメ、映画吹き替えでメインキャラを担当。主にはカンフー映画俳優サモ・ハン・キンポーの吹替え、『魔法の天使クリィミーマミ』俊夫役など。NHK『連想ゲーム』、TBS系『ひるおび!』ナレーションなどテレビ出演も多数。日本民間放送連盟賞(ラジオ・CM部門)、日本アニメグランプリ最優秀賞キャラクター賞受賞。

野坂実(のさか・みのる)
1974年生まれ、福井県出身。
1998年、加藤健一事務所俳優研究所卒業。2002年、文学座・加藤健一事務所の卒業生を中心に「クロカミショウネン18」を旗揚げ。2012年の劇団解散後は、翻訳劇の演出を多数手がけるなど精力的に活動。「ノサカラボ」のほか水島裕、山寺宏一らと演劇ユニット「ラフィングライブ」を共同主宰。近年の舞台は、30-DELUXE『のべつまくなし 改』、SHY BOYプロデュース『ラン・フォー・ユア・ワイフ』など。

公演情報

ノサカラボ音楽朗読劇 シャーロック・ホームズ』#1

日:2021年8月28日(土)・29日(日)
場:サントリーホール ブルーローズ
料:7,000円(全席指定・税込)
HP:https://nosakalabo.jp/
問:ノサカラボ mail:info@nosakalabo.jp

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