連続対談企画④『“演劇”のある生活』[7月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

連続対談企画④『“演劇”のある生活』[7月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第4回 無料放送局『BS松竹東急』 7月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 
(第2回)5月のラインナップ
 
(第3回)6月のラインナップ

7月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアター
 7月2日(土) 夜6時30分~地球ゴージャス
         「HUMANITY THE MUSICAL ~モモタロウと愉快な仲間たち~」
 7月9日(土) 夜6時30分~こまつ座「円生と志ん生」
 7月16日(土)  夜6時30分~歌舞伎「人情噺小判一両」「新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎」
 7月23日(土)  夜6時30分~歌舞伎「眠駱駝物語 らくだ」「番町皿屋敷」
 7月30日(土) 夜6時30分~METライブビューイング2011-12 ヴェルディ《椿姫》

週末ミライシアター
【演劇】劇団鹿殺し特集
 7月2日・16日(土) 深夜0時30分~「俺の骨をあげる」
 7月9日・23日(土) 深夜0時30分~「キルミーアゲイン’21」
【映画】
 7月3日・17日(日) 深夜0時30分~関西学生映画祭 作品集
 7月10日・24日(日) 深夜0時30分~SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 ノミネート作品集
【特別企画】
 7月30日(土) 「若手クリエイターと出会おう 真夏のミライ映画フェス」

吉田「今回も、幅広いラインナップですね!回を重ねるごとに、バリエーションがより豊かになってきている気がします。そしていよいよ、劇団鹿殺しが登場!週末ミライシアターの特別企画も気になります。」

湯浅「そして今回もゲストがいらっしゃいます。」

伊藤「放送作家の伊藤正宏です。『ポツンと一軒家』とか『ミュージックステーション』を担当しています。テレビをやっている人間がなぜここに来たかというと、今から40年ほど前、小劇場ブームの時代に第三舞台という劇団があって、私はその劇団に役者として参加していました。ま、端っこの方にちょろっといただけですが、そんなご縁です。」

湯浅「伊藤さんとは番組を昔ご一緒したご縁がありまして、最近では一緒に芝居を観に行ったりしています。」

吉田「伊藤さんは第三舞台の旗揚げメンバーなんですか?」

伊藤「いえいえ。第三舞台の旗揚げは『朝日のような夕日をつれて』という舞台だったんですが、そのクライマックスにステージ面が傾く演出の時、舞台下に潜って持ち上げてた人間の一人でした。当時は、そんな新人劇団員でした。この劇団で10年ほど役者をやって、そのうち、アルバイトとして始めたのが放送作家でした。で、その後いろいろあって俳優を辞めて以来、ずっと放送作家をやってます。」

吉田「役者のときは第三舞台以外の公演とかも出られたことはあるんですか?」

伊藤「今ではナイロン100℃などで活躍中のケラリーノ・サンドロビッチさんの舞台にも出たことがあります。」

湯浅・吉田「へー!!」

伊藤「当時、まだ『劇団健康』という名前でした。KERAさんも演劇を始めてまだそれほど経ってない頃で、世間的にはまだバンド『有頂天』のボーカルの人だと思われてた時代です。」

吉田「それは貴重な!」

湯浅「伊藤さんというとやっぱりあれですよね、『めちゃイケ』を立ち上げられた作家としても有名ですよね。小学生の頃は欠かさず見ていました。今回は放送と演劇というところを語っていただけるのでは、と密かに期待しています。」

吉田「私は初めましてなのですが、実は私、大学の後輩で学部も同じなんです!昔は演劇と言えば早稲田、と言われていて、私世代だとみんな第三舞台が憧れで、劇研の門を叩いて最初の新人トレーニングで脱落する同期がたくさんいました。私は劇研には入らず自分で劇団を旗揚げしましたが、第三舞台はずっと好きで、第三舞台の本をずっと部屋に飾って愛読していました。今日はお会いできて本当に光栄です。」


湯浅「ということで、まずは土曜ゴールデンシアターのラインナップからご紹介します!」

伊藤・吉田「よろしくお願いします!」

湯浅「7月2日は岸谷五朗さんと寺脇康文さんによる演劇ユニット“地球ゴージャス”の『HUMANITY THE MUSICAL~モモタロウと愉快な仲間たち~』を放送します。」

湯浅「鬼退治で有名な昔話『桃太郎』の世界と、現代の会社社会を交錯させて、人間の持つ“二面性”をクローズアップしつつも、『人間らしく生きること』を問い掛けたヒューマンストーリ-です。6月にはブロードウェイのミュージカルを放送しましたが、今回は国内のミュージカル作品を初めてお送りすることになります。」

吉田「岸谷五朗さん・寺脇康文さんと言えば、テレビドラマや映画のイメージが強く、ずっと舞台をやられているという事を知らない方もいるかもしれませんが、もともとは、三宅裕司さんが主宰する劇団スーパーエキセントリックシアター(SET)の劇団員で、舞台をこよなく愛するお二人だからこその、壮大で豪華なライブエンターテインメント作品を毎回上演されていますね。以前ACTシアターで拝見しましたが、全てのエンターテイメント要素が散りばめられた本当に素晴らしい舞台でした。」

湯浅「伊藤さんは地球ゴージャスさんの作品をご覧になったことはありますか?」

伊藤「僕がまだ劇団員だった頃、スーパーエキセントリックシアターをよく観てた当時は、岸谷さんも寺脇さんも若手の俳優さんで、SET隊(せったい)という三人組でした。偶然ですが、そんなSET隊の初めてのレギュラー番組にも、新人放送作家として参加してました。」

湯浅・吉田「へー!!」

伊藤「その後、お二人で『地球ゴージャス』を始められましたが、あそこの舞台はとにかく誰が観ても楽しい。歌あり笑いあり、ダンスの種類も豊富で、殺陣までやったり。あと、ゲストの俳優さんも著名な方が多いので、『人生で初めて観る演劇』としても最高なんじゃないかと思ってます。

吉田「地球ゴージャスさんは、演劇ビギナーの方には本当入りやすいですよね!」

湯浅「そして、7月9日には、こまつ座『円生と志ん生』を放送します。昭和を代表する国民的落語家・三遊亭円生と古今亭志ん生。戦後、彼らが人生との戦いを通じてその話芸をピカピカに磨き上げた狂騒の一時期を、虚実をまじえて、井上ひさしさんが描いた…こちらもの音楽劇となっています。」

吉田「以前(4月のときに)もお話しましたが、井上ひさしさんは日本が誇る劇作家。国語の教科書にも出てくるので、舞台は見たことがなくても、名前を知らない人はいないんじゃないかと思いますね。今回の『円生と志ん生』もそうですが、つらくて苦しい状況下でも、悲しいことを笑いや力に変えて、いか人間は生き延びていくんだろうというテーマを、やさしく温かい視点で描かれる作品が多いですね。だからいつもこまつ座は、観た後に元気と大切な何かをもらった感覚になります。」

伊藤「井上ひさしさん、実は僕からすると大先輩にあたる方なんです。」

吉田「確かに、放送作家としても活躍されていましたよね。」

伊藤「しかも僕の子供時代は、NHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』とか『てんぷくトリオ』のコントとかも彼の作品で、だから私の子供時代は、知らない間に井上ひさしさんで育てられちゃっているようなところがあります。そんな中、とくに今回放送される『円生と志ん生』は、まだ生の舞台を観たことはないんですが、円生師匠と志ん生師匠の味わいが出た大好きな戯曲のひとつです。しかも、見られるのはラサール石井さんのバージョンとか!すごく楽しみです。」

湯浅「そして歌舞伎ですね、7月は2週続けて歌舞伎をお送りします。7月16日には、歌舞伎『人情噺小判一両』『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』、7月23日には、歌舞伎『眠駱駝物語 らくだ』『番町皿屋敷」となります。』

湯浅「内容としましては、7月16日の『人情噺小判一両』『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』はどちらも尾上菊五郎さんが主演の舞台です。『人情噺小判一両』は、宇野信夫作の新歌舞伎。人への情けが仇となってしまう世の中のむずかしさを、人情噺風に描いた名作。『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』は江戸庶民の粋と哀感を描いた河竹黙阿弥の生世話物の名作ですね。」

吉田「新歌舞伎というのは、明治後期から昭和初期にかけて、劇場とは関係を持たない独立した作家が書いた歌舞伎作品のこと。それまで歌舞伎の台本というのは、一座や芝居小屋専属の作家が特定の役者のために書いたものでしたが、明治以降の近代化でこういった歌舞伎が作られるようになりました。生世話物というのは、歌舞伎演目の世話物の中でも、特に下層社会の人物や生活をより写実に描いた作品、あるいは人間の性根や悪性をリアルに描いた作品。生世話物の代表作といえば鶴屋南北の『東海道四谷怪談』ですね。」

湯浅「さすが吉田さん!歌舞伎も詳しいんですね!」

吉田「任せてください!うそです。さすがに少し予習しました(笑)。」

湯浅「続いて7月23日に放送する『眠駱駝物語 らくだ』は、悪友のらくだと仇名される遊び人の馬吉の家を訪ねたところ、馬吉は前夜に食べた河豚の毒にあたり頓死していた、という僕が大好きな新歌舞伎の演目のひとつです。そして『番町皿屋敷』の名前は聞いたことがあるのではないでしょうか?」

吉田「お菊さんですね!」

湯浅「はい、怪談で有名な『皿屋敷』ですが、本作は怪談話ではなく男女の純粋な恋愛感情から生じる悲劇として描かれた演目となっています。」

伊藤「ところで、皿屋敷が2週続いていますけど、これ、何か意味があるんですか?」

湯浅「よくぞ気づいてくださいました。なぜ『新』皿屋敷なのかわかりますか?」

吉田「わかりません。」

湯浅「そこには理由がありまして…。そちらについては放送の解説で説明していますのでぜひご覧ください。」

吉田「(笑)」

湯浅「伊藤さん、歌舞伎はご覧になりますか?」

伊藤「歌舞伎は好きです。今から20年くらい前に『平成中村座』をたまたま観たらとにかく面白くて、以来、同じ演目でも他の方が演じたらどうなるんだろう?とか思うようになって、その他の歌舞伎も見るようになりました。今回放送する作品は落語でも知ってる演目。ただただ楽しみにしています。」

湯浅「そして、7月30日にはメトロポリタン・オペラ『ヴェルディ《椿姫》』を放送します。

吉田「メトロポリタン・オペラというのは、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場に本拠地を置くオペラ・カンパニーです。超一流の歌手・オーケストラ・最先端の演出・装置の豪華さで世界最高峰のオペラハウスと言われています。」

湯浅「『椿姫』は、パリの社交界を魅了する病身の高級娼婦がめぐり逢った真実の恋とは?運命とは?音楽とドラマに最後まで心を鷲掴みにされる傑作です。」

伊藤「コロナ禍になってから、ネットで著名なオペラ歌手の方たちが歌ってる動画なんかを拝見することが多くなって、そういった皆さんの歌のパワーってとんでもないなあと感じていました。声だけでも震えますよね。そんな訳で、今回の放送、楽しみです。」

吉田「7月は歌舞伎と音楽劇が満載のラインナップですね!」

湯浅「そうですね、そして週末ミライシアターも音楽劇から始まります!」

7月の週末ミライシアターでは劇団鹿殺しを特集!

湯浅「7月の週末ミライシアターでは、劇団鹿殺しさんを特集します。」

吉田「劇団鹿殺しは、2000年に関西の同じ大学の演劇サークルに在籍していた菜月チョビさん・丸尾丸一郎さんが旗揚げした劇団です。2005年に劇団員全員で上京、東久留米市の一軒家で共同生活しながら活動。その頃はまだ私も今の会社を起ち上げたばかりの頃でしたが、わざわざ丸尾さんが事務所までご挨拶に来てくれて、その時から一ファンとしてもずっと観ています。最初は新宿のゴールデン街劇場などの小劇場でも上演していましたが、一躍人気となり、数年で本多劇場に進出、さらに銀河劇場やサンシャイン劇場でも公演をおこなう超人気劇団ですね。」

湯浅「伊藤さんも劇団鹿殺しさんとは交流があるんですよね?」

伊藤「10年くらい前に、当時『大改造!劇的ビフォーアフター』という番組の総合演出家をしてるディレクターが、時々何人かの若者を連れてることがあって、それで『え、誰?』って聞いた。それが劇団鹿殺しの人たちとの出会いでした。丸さんとかチョビさんとか。彼らは東京に来たばかりで、たぶん一番大変だった時期なんじゃないかな?それで付き合いが始まって、さっそく芝居を観に行って驚いた。その頃ではもう珍しかったアングラ魂を受け継いだすごくドメスティックな舞台なんだけど、音楽の使い方とかテンポとかに不思議なポップさがある。それらが一体化してる感じが珍しくて、不思議な面白さがあった。で、すぐさま彼らに言った。『君たち将来きっと売れるから、劇団名だけは変えた方がいいよ』って。だって『鹿殺し』って劇団名じゃ、絶対に売れないと思った(笑)」

湯浅「そもそも『劇団鹿殺し』の名前の由来って何なんですか?」

吉田「夕暮れ、崖で夕日を見ている鹿がいる。後ろから猟師が銃口を向けて命を狙っていることに気づいていながら、それでも鹿は、ただ夕日の美しさに集中し、佇んでいる。という内容の詩があって、その一説からとっているとのことです。僕も出身が奈良県なんですけど。」

伊藤「一番、鹿を殺しちゃいけない県ですね!」

吉田「はい、どちらかというと禁句ですね(笑)。だから最初劇団名聞いたとき、『ええ?』って思いました。」

伊藤・湯浅「(爆笑)」

湯浅「由来、とても素敵ですね。」

伊藤「でも劇団名だけじゃその由来、絶対伝わらないですよね。いきなり、この劇団名聞いたら、まったく違う舞台を想像しちゃう。逆に言うと、この、とんでもない劇団名でよくぞ売れたなあって思う。『きっと、それぐらいに力のある劇団だったんだよ』と、本人たちには言ってます。」

湯浅「そんなお二人も大ファンの、劇団鹿殺しさんですが、今回はストロングスタイル歌劇『俺の骨をあげる』と『キルミーアゲイン’21』を放送します。」

吉田「『俺の骨をあげる』は、2013年、東京芸術劇場にて上演された音楽劇『BONE SONGS』のリメイク。歌にダンスに卓球にプロレス、ライブ+スポ魂+恋愛全部ひっくるめた一大エンタメ大作です。『キルミーアゲイン’21』は、2016年、活動15周年記念公演として本多劇場にて上演された演目を大幅リライトされた音楽劇です。劇中では、人魚伝説が残るある村を舞台にした物語が展開。演出でご自身も出演されている菜月チョビさんの歌声が絶品です。いずれの作品も、これまで路上パーフォマンスやライブハウス音楽劇など、演劇の枠におさまらない活動を続けてきた鹿殺しだからこそ辿り着いた、唯一無二の表現スタイルを存分に堪能できる作品です。」

伊藤「そう!テレビで是非、チョビさんの歌声を聞いてほしい!いろんな魅力のある方で、『俺の骨をあげる』では彼女の役者としての魅力がとにかく出ています。また、劇団の代表作のひとつだと勝手に思っているくらい好きな作品だったりします。鹿殺しの舞台では、非常に抑圧された社会の中で蠢く人間の屈折とか感情の爆発なんかが描かれることが多いんですが、それらと音楽的な美しさや楽しさとが、なぜか見事にマッチングしちゃう瞬間があるんです。それがめちゃくちゃ気持ちいいんです。その象徴的なもののひとつが、チョビさんの歌声かなあと思ったりする時があります。」

湯浅「そして、毎週土曜には演劇を、日曜には映画をお送りしている週末ミライシアターですが、映画では関西学生映画祭の入選作品とSKIPシティ国際Dシネマ映画祭ノミネート作品集をお届けます。」

吉田「そして、最後に気になるものがあります。『若手クリエイターと出会おう 真夏のミライ映画フェス』ですか?」

湯浅「実はこうした週末ミライシアターの試みに、映画情報サイトのムビコレさんが共感してくださって、一緒に何か若手クリエイターの発掘&育成につながることはできないか、と提案がありました。それで、東京学生映画祭とタイアップして、この企画が立ち上がりました。」

吉田「どういう企画なんですか?」

湯浅「詳しくはこちらをご覧ください。」

伊藤「面白い企画ですね。」

吉田「放送だけじゃなくて、それに関連した動きもあるので盛り上がりますよね。」

湯浅「BS松竹東急では、演劇と映画の編成に力を入れています。ですが、僕たちが放送してますよ、だけではやっぱりなかなか多くの方には届きません。ムビコレさんもそうですし、もちろんカンフェティさんもそうですが、映画や演劇を愛している企業、支えている企業や映画祭のような企画などとタイアップして、みんなで協力して業界をもっともっと盛り上げていこう、そうするためにはどうすればいいかを常に考えています。」

伊藤「でも本当いいですよね、深夜ドラマとかのプロデューサーとかに薦めたい。この放送局を見ておくと映画とか舞台とかの若手が出てくるのでキャスティングにも役立ちますよ、とか。」

湯浅「放送業界で声大きく宣伝してください。」

伊藤「わかりました(笑)」

湯浅「では、最後に。僕の単純興味の質問を。伊藤さんは、元・第三舞台。第三舞台と言えば、いわゆる小劇場ブームを牽引されていたと思いますが、当時の演劇はどうでしたか?」

伊藤「今の演劇界ってプロデュースシステムっていうのが当たり前になってきていますが、それって実は80年代後半から90年代頭に始まった動きで、それまではそんな考え方する人ってほとんどいなかったんです。」

吉田「そうですよね、劇団ありきでしたもんね。」

伊藤「どの劇団も、どうやったらいいかわからないから、それこそ当時はそのへんの居酒屋さんで広告を貰ってきたり、チラシを一生懸命折り込んだり、制作システムなんて、最初はみんな見よう見まねてやっていたようなところがありました。今から考えたらすごく原始的なんですが、逆に言うと、みんなまっすぐに夢ばっかり見ながら走ってた。制作だけじゃなく、舞台そのものも。それで10年くらい走り続けてたら、演劇ブームってやっぱりブームだったかもしれないなって思うようになって、そんな中から新しい演劇や新しいプロデュースシステムが生まれたり演劇界はどんどん変わっていくんだけど、それまではみんな、舞台そのものも制作的なことも、反省するとかなんとかって言うより、無我夢中に突っ走ってた。そんな時代だったような気がする。」

湯浅「そもそもなんですけど、小劇場ブームってなんで起きたんですかね?」

伊藤「あくまで個人的な考えだけど、演劇ブームが起きた頃って、世の中にお金が爆発的に回りまくってた時代で、演劇やってる人間は相変わらず貧乏だったけど、何より、学生さんたちや若い会社員たちにお金がどんどん回ってきて、それまでは『アングラでしょ?』の一語で片付けられてた演劇界にも『なんか、見たこともない面白いものって、どんなものなの?』という強烈な興味だけで若い人たちがどんどん集まって来るようになったのかなって。そうなると、どんどんお客さんが増えるから、劇団の方もテンションが上がるし、さっき言ったように、みんなが無我夢中に突っ走ってた。そんな時代だったのかな、って。」

吉田「いい時代ですね。」

湯浅「逆に演劇ブームはなんで終わったんですかね?」

伊藤「ひとつのチームが勢いだけでやれることには時間的な限界があって、それがだいたい10年かなと思う。劇団でも、バンドも、だいたい10年やると、大きな波乱が起きる。始めた時は20代だった劇団員も30代になって、いろいろ生活のことも考えないといけなくなる。そうなると、チケットの代金とか公演数とかも、ちゃんと緻密に考えないとうまくいかなくなる。そういう劇団たちの曲がり角の時代がやってきて、しかも、ちょうどそこにバブルの崩壊がやってきて、お金の回る速度も遅くなる。その結果、どの劇団も無我夢中じゃいられなくなって、いろんな形態に進化していく。それはブームの終わりでもあるけど、演劇界が大人になるための大事な時期だったのかも、って思ったりもします。あくまで個人的な意見ですが。」

湯浅「お金が回ってきたからといって、人が演劇に集まった仕掛けってなんだったですかね?」

伊藤「面白い話で、演劇ブームの頃、誰も広告費をいくらかけようとかあんまり考えてなかった。『面
白ければ口コミで来るよね』ということを無邪気に信じてた。世の中には、それこそ『月9(げつく)』的な華やかな文化もあったんですが、『私たちはそれとは違うぞ』っていうお客さんたちがいて、変わったものを観ようと小劇場までやってきてくれた。今ではネットの役割なんでしょうが、当時は雑誌のはみ出し記事や友達の学食での会話がまさにネットみたいな感じで、正直それがちゃんと機能してたように思う。」

吉田「昔の熱量は凄まじかったですね。」

伊藤「当日券のチケットのために、劇場前にずら~っと並んでいましたよね。おまけに劇場の客席ではぎゅうぎゅうに詰め込まれて…それでもお客さんは文句を言わなかった。それは今から観る文化が初めてで楽しみなものだったからだと思う。今はどんなものでも体験する前にある程度のイメージが出来てしまう。でも、当時はそんなこと誰も考えちゃいない。行ったらなんかすごいものやってるぞ、っていう口コミ。そういうのに対する熱量があった。みんなが『メジャー文化以外の面白いもの』を求めていた時代だった。」

湯浅「今、演劇を放送することの意味、どういう仕掛けが求められていると思いますか?」

伊藤「コロナ禍でなかなか演劇に行けない期間が続いて、変わったもののひとつに『配信』が始まったことがあります。結果、今までと違うアプローチで演劇を観る機会が増えた。ZOOM演劇とか、既成の劇団でも配信を活かした舞台を作ったりとか、実験を始めた。もちろん演劇好きとしては、『演劇は生じゃないと!』という気持ちはあります。だから僕も、配信で観るときは頭でちょっと変換するんです。決して同じじゃない。だけど、今までとは違う演劇への入り口が生まれたことは間違いない。もちろん『演劇はテレビじゃ伝わらない』っていうのもあって、それはそれで真実なんだけど、でも配信や、時にはネット動画など、別の入口から演劇の世界に入ってくる人も確実にいる。今の若者はYouTubeやネットを通じていろんなものと出会うことが当たり前になってる。今の人たちってメディアが違うからとか、あんまり思わない。コンテンツが面白いと思ったら、メディアなんて平気で飛び越えてたどり着いてくれる。そういう時代にあってる企画じゃないかな、と。おまけにBS松竹東急では、他の放送局では絶対にやらないような作品をやるじゃないですか。あと、『BS』というメディアを考えると、80年代~90年代の演劇ブームのお客さんたちって、まさにBSのメインターゲットですよね。なので、おそらく彼らは、『初めてのもの』とか『慣れない文化』を観ることにそんなに抵抗感はないと思うんです。それで放送を観て、『久しぶりに劇場に観に行ってみようかな』ってなったらすごく素敵ですよね。という訳でこの局の戦略、個人的には、結構面白いツボを突いているなと思います。だって他の局でやってるエンタメはちょっと頑張ればどこでも見られるじゃないですか。でも、演劇はそうそう簡単には観られませんから。」

湯浅・吉田「いやあ~。」

湯浅「勉強になる話しかない!」

吉田「そうですね(笑)」

湯浅「正直、演劇ブームを支えたお客さんをメインターゲットにというのは、僕にはない発想だった
ので、大変参考になりました。今後はこの対談企画やミライシアターの作家にも是非入っていただいて一緒に盛り上げていただければと思います(笑)」

伊藤「(笑)」

吉田「というところで、今回は以上ですかね。」

湯浅「そうですね、ありがとうございました。」

伊藤「ありがとうございました!」

プロフィール

●伊藤正宏(いとう・まさひろ)
放送作家。1963年大阪府出身。「めちゃめちゃイケてるッ!」「料理の鉄人」「クイズ$ミリオネア」「大改造!劇的ビフォーアフター」「MUSIC STATION」「空から日本を見てみよう」「和風総本家」「ポツンと一軒家」など。81〜93年まで劇団第三舞台で俳優として活動。

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

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